永田町の蜜蜂(または蜜の櫛)

今朝、「めざましテレビ」の「はてなにクリック」というコーナーで、東京ど真ん中の養蜂場の話題を取り上げていた。その場所たるや、住所にして東京都千代田区永田町1丁目8番1号。皇居と桜田濠を臨み、国会図書館最高裁判所と首都高三宅坂ジャンクションに囲まれた……社民党本部である。その屋上に、150万匹のミツバチが居を構えているというのだ。
働き蜂と社民党。何か象徴とか暗喩のために飼っているのか?(でも、それだと「労働者から搾取する社民党」になっちゃうか)と思ったら、さにあらず。マジで養蜂しちゃってるのである。
社民党本部の屋上に、春季限定の養蜂(ようほう)場が設けられている。七階建てビルの屋上には二十六個の巣箱が並ぶ。今年も約百五十万匹のミツバチが……永田町の上空を軽やかに飛び交い、菜の花やユリノキなどの甘いみつを集めて回っている。(神戸新聞ニュース)」


なぜそんな所でそんなことになっているのか?それは、岩手県藤原養蜂場の藤原誠太さん(47)が、お濠端に並ぶユリノキを見たことがきっかけで始まった。
ユリノキ。耳慣れぬ名前である。しかし、街路樹などでよく見かけるので、実は馴染み深い木でもある。

ユリノキ
モクレン科の落葉大高木。北アメリカ東部原産で、各国で植えられ、日本には明治初年に渡来し、街路樹、公園樹とされる。原産は北アメリカ。(しかし、アメリカインディアンがこの木でカヌーを作ったため、今では北米に大きなユリノキはなくなってしまったという。ホントか?)
高さ30メートル、直径3メートルに達する。初夏、緑黄色で径約六cmの広鐘形の六弁花を開く。材は建築・家具・細工物用。別名は、はんてんぼく・うっこんそうじゅ・れんげぼく。

この木ユリノキ気になる木♪名前も知らない木ですから、名前も知らない花が咲くでしょう♪
木はありふれているのに、花を見る機会は余りない。茂った葉の間に咲くので、とても気づきにくいのだ。
この木、学名をLiriodendron tulipiferaという。和名のユリノキは、Liriodendronの直訳(ギリシャ語のleirion(ユリ)+dendron(樹木))。明治23年、のちの大正天皇が皇太子の頃に小石川の植物園を訪ね、そこにある日本最古のユリノキ種の木を見て、その木を「ユリノキ」と命名したとされる。英名はTulip tree。とすると、ユリのようなチューリップのような花が咲くのか?と悩むより、実物を見た方が早い。

なるほど、ユリのようなチューリップのような花である。ひねりがなくて申し訳ないくらいだ。


余談が長くなった。
ともあれ、誠太さんは皇居付近に沢山あるユリノキを見て、「もったいないな」と思ったらしい。このユリノキの花は、良質の蜜を生むのである。「この辺に巣箱を置けたらいいのに」と、国産はちみつの専門店「花めぐみ」(本店・東京)の吉田幹夫社長(62)に話したところ、吉田社長が乗り気になった。新規に養蜂場を作るようなスペースがないのは明らかだが、商業ビルが少ないこの辺りならば、屋上を借りることができるかもしれない。
しかし、周辺数ヶ所の建物に申し込んだところ、「屋上はヘリポートに使う可能性がある」「蜂に刺されるかも」などと断られた。(皇居の上ってヘリコプタ飛ばしていいんだっけ?)私も蜂を見れば冷や汗を流すタイプなので、「ミツバチは刺さない」とか言われても、「いーやあいつらは刺すね」と言い張ってお断り申し上げるであろう。
だが、環境問題への取り組みを党のテーマに掲げる社民党本部がこれを快諾、なんと無料で屋上を借りられることになった。言ってみるもんである。以来、3年前から毎年3月下旬〜5月末、誠太さんは盛岡との間を往復して世話をしている。その後は、遅い春を迎える岩手県内で蜜を採集すべく、巣箱ごと盛岡市に戻される。エライ苦労をしているようだが、それに見合うだけの「収穫」はあるのだろうか?
「大都会のど真ん中の臨時養蜂場では、四月はサクラやトチ、ユリノキ、五月はミカンやキンカンのみつが採れる。皇居の豊かな森が近いため、二カ月で一トンほど集まる。(読売新聞の記事によれば、『1箱から4、5日で10kg以上のハチミツが取れる』とのこと。)東京の乾燥した気候も生育に適しているといい、「国会議事堂も、ミツバチにはただの岩山にしか見えないでしょう」と藤原さんは笑う。」(神戸新聞ニュース)
蜂蜜1トン……てどんなだ?蜂蜜の比重は水の約1.4倍(蜜源植物や水の含有量によって異なる)。水ならば、1トン=1,000リットル。蜂蜜ならば、714リットルになるということだ。*1牛乳パック714本分!印象としては多いが、費用対効果としてはどうなのか。
しかし、少なくとも環境保全及び改善には役立つという。「ハチを飼うことで周辺の木々の受粉が盛んになって実を付ける。それを求めて鳥がやってくる。(吉田社長)」
ユリノキのみつは250グラムで2,415円。「花めぐみ」で販売中である。


ところで、このトピックを聞いて、そういえば英語で言う蜂の巣「honeycomb」(ハニカム)の「comb」ってなんだろう?と不思議に思った。
combは「こんぶ」なので、honeycombなら「蜂蜜こんぶ」……というのは無論大嘘である。誰も信じないだろうが。
combは「櫛(くし)」である。発音は[koum]。それは知っているのだ。しかし、なぜ櫛が蜂の巣になるのだろうか?辞書の定義を見ると、下記の通りである。

comb[koum]
1 くし
2 (鉄歯の)馬ぐし.
3 くし状の器具(ルーズリーフのとじる部分など);梳機(すきき).
4 《a 〜》くしですく[とかす]こと.
5 (鳥の)とさか,鶏冠;とさか状になったもの(波がしらなど).
6 ハチの巣(honeycomb);ハチの巣状の小室の集まり.
語源 古英語←ギリシャ語gmphos(歯)

comb自体に「蜂の巣」の意味がある。意味に含まれる物(櫛・波頭・歯)を見ると、「同じ形のものが均等に密集して立っている」状態を示す言葉のようだ。トサカには少し違和感があるが、家禽が群れているところを想像すると、同じグループに属するような気もしてくる。
今まで「ハニカム構造」と聞くと、「六角形が寄り集まった」状態を思い浮かべていたが、実際には「六角柱がみっちりと立ち並んだ」様子を示すということなのだろうか。


最後に、藤原誠太さん直伝「本物の蜂蜜の見分け方」。
最近、蜜の取れる草や木が減ってきている。そのため、蜂蜜に別の糖分を混ぜたものが市場に多く出回っているそうである。では、純粋な蜂蜜はどうやって見分けるのだろう?
「純粋な蜂蜜は光を屈折させるんです。だから、日光にあてても反対側が見えないんですよ」とのこと。

おお、なんだかスゴイぞ。ダイヤの鑑定みたいだ。(言い過ぎです。)
皆さんも、蜂蜜を太陽にかざしてみてください。ところで、うちの蜂蜜は白く濁っているんですが、それはどうなんでしょう?いや、買った時は透明だったんですけどねえ……。

*1:この計算に私がどれほどの時間を費やしたかは、恥ずかしくて言えない。しかも、合っているのかどうか不安ですらある。