くらのかみ

くらのかみ (ミステリーランド)

くらのかみ (ミステリーランド)

ミステリーランド」三冊目。
「マレビト殺し」や「座敷わらし」という折口信夫的世界に、財産相続をめぐるミステリーを織り交ぜた、一風変わった(しかしいかにも小野不由美的な)物語。
佐藤さとるさんの本でおなじみ、村上勉氏のイラストが実にステキ。


耕介は父と暮らす小学6年生。母は4年前に亡くなり、母方の親戚との付き合いも絶えていた。
しかし、ある日母方の大伯父から召集があり、父子は見ず知らずの遠い土地にある「本家」を訪れることになる。方々から集められた、初めて会う親戚、子供たち……いとこ、はとこ。
現在本家の主である大伯父が病の床にあり、その相続人を決定するために彼らを呼び寄せたのだという。大伯父には三人の息子がいるのに、なぜ別の跡継ぎを探すのか?それは、この家に残る伝承と「たたり」のためなのだった。素封家のこの家では、跡継ぎになる者に子供ができない。できても、幼時の内に死んでしまう。病死したり、敷地内の「行者池」で溺れ死んだり……そう、これは過去の「行者=マレビト殺し」の呪いなのだ。だから、大伯父の息子たちに子供はいない。そのため、親戚の中で既に子供がいる夫婦が跡継ぎとなるのだ。無論、「相続人」たちはそんなことを信じてはいないのだが。
しかし、子供たちは、せっかくの夏休みに薄気味悪い旧家に閉じ込められて退屈していた。そんな時、大伯父の一番下の息子(大学生の"三郎さん")が、「四人ゲーム」という話をする。
「ゲーム」とはこういうものだ。四人の男女が冬山に登り、山小屋で激しい雪に降り込められる。小屋は明かりもなく、暖も取れない。「眠ったら死ぬ」と思った四人は、部屋の四隅に別れて立つ。そして、まず一人が壁伝いに歩いてそこにいる人の肩を叩き、叩かれた人はまた壁伝いに進んで次の人の肩を叩き……ということをして、目を覚ましていようとする。そうして朝までぐるぐると四角く歩き続けたおかげで、眠り込むことなく夜を明かし、無事下山することができた。
しかし、何かがおかしい。このゲームは、四人ではできない。最初に歩き始めた人がいた場所には、もう誰もいないはずなのだ。それでは、いないはずの隅にいた「モノ」はなんなのか……まあ、よく聞く怪談話である。
子供たちは、早速蔵座敷の中でそれを試してみる。真っ暗な中、四人が四隅に立つ。どこに誰がいるかは分からない。もちろん、最初に歩き始めた子供のいる場所には誰もいないはずだった。だが、二番目の角にいたはずの耕介は、背後から肩を叩かれる。明かりをつけると、そこには五人の子供がいた。そして、誰が「いないはず」の子供なのかが、誰にもどうしても思い出せないのだった……。
その頃、相続人たちの食事に毒草が混ぜられるという事件が起きる。犯人は誰なのか、それともこれも行者の呪いなのか?子供たちは自分の親を守るために捜査を始める。「座敷わらし」が誰なのか分からぬままに……。


ヒジョーに面白かった。わくわくした。先が読みたくて、レジに並ぶ列でも読んだ。信号待ちの街灯の下でも読んだ。エレベーターの中でも読んだ。そして……ちょっとがっかりした。そうなるのお?と不満に思った。
しかし、後日最後の部分を読み返したところ、最初に感じたほど物足りなくはないのだった。あの時は、期待する余りに、何か恐ろしく強烈なカタルシスを求めてしまっていたらしい。
「お約束」ではない。善玉も悪玉も固定観念では決められない。そして、最後には静かな教訓も得られる。子供たちには、民俗学や日本の古い伝承に興味を持つきっかけにもなるかもしれない。
しかし、これだけは言っておく。冬山で吹雪に降り込められるという状況で「眠ったら死ぬ」なら、「起きてても死ぬ」らしいよ。★★★★☆