正しい言葉

高校生くらいの頃、「TVに向かって話しかけるのはボケの兆候」と聞いた。
そりゃマズイ、とも、そりゃウソだ、とも思った。何故なら、その頃の私は帰宅したらラジオをつけ、その「おしゃべり」と会話するのが日常的だったためだ。時折、後から帰った家族が来客があるのかと勘違いしていた。
(無意識に、まるで話を聞かない人と「会話」できる技術を訓練していたのかもしれない。会社生活では大いに力を発揮する技能である。)
さて、そんな癖は今でもそのままである。「会話」をするのは家に一人でいるときに限るが、家人とTVを見る時にも「つっこみ」をしてしまう。
しかし、家人はこれを「オバサン化の兆候」と言う。「違うんだよ、ボケの初期症状だよ」などと訂正すると、なおややこしいことになる。「子供の頃からやってる」と言えば、何やら孤独な人生を送ってきたと誤解されそうである。もう、オバサンで結構。オバサンジョ大統領と呼んでくれ。
まあ、家人の気持ちの分からぬでもない。「つっこみ」は「会話」と異なり、放送内容にいちゃもんを付ける行為である。家人が特に「オバサン指数が上がる」と言うのが、「間違った日本語」の指摘である。
形容詞を二重に使うな。形容詞の前に使うなら副詞でしょ。「スゴイきれい」じゃなくて、「スゴクきれい」だっ。「泣いて職を切る」ってーのはどういう言い回しだ。本人は「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」って言ってるのに、間違ったテロップを出すな。「おる」は謙譲語だというのに、客に向かって「おりますか?」とはなんたる無礼!
こんなことをブツブツ言っているんだから、そりゃあ怖いか。ちょっと反省。


さて、最近こんなニュースがあった。

<日本語の語彙力>私大生の19%「中学生並み」
 大学生の語彙(ごい)力が低下していることが、大学、短大の中堅校を対象にした調査で分かった。独立行政法人メディア教育開発センター千葉市)が実施し、私立大1年生の19%、短大1年生の35%が「中学生レベル」と判定された
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 同センターの小野博教授らは02年、中・高校生約20万人に予備調査を実施。この結果に基づいて、日本語力を「中1」から「高3以上」までの6レベルに分けた。
 一方、「読む・書く・話す」といういわゆる「日本語力」は、語彙の豊富さから類推できるため、今回の調査用に75の言葉の意味を選択肢から選ぶマークシート方式の「日本語力判定テスト」を作成。19大学、6短大と国立高等専門学校の計26校の昨春の新入生7052人に、このテストを受けてもらい、予備調査結果と照らし合わせてレベルを判定した。
 その結果、「鶴の一声」「露骨に」などの意味が分からない「中3レベル」以下の学生の割合は、国立大(3校)で6%、私立大(16校)で19%に上った。短大では35%と、3人に1人が中学生レベルだった。国立高専は4%にとどまった。
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◆各レベルの代表的な例題◆(正しい意味を五つの選択肢から選ぶ)
<中1>重視 (1)重たいこと(2)大事だと考えること(3)目が疲れること(4)見えにくいこと(5)じっと見ること
<中2>さじを投げる (1)ひどく怒る(2)乱暴な様子(3)非常識(4)あきらめる(5)好き嫌いをする
<中3>一目置く (1)周囲をみわたすうちに目を留める(2)検分していた目を休める(3)大勢で特定の人物を凝視する(4)相手の目をじっと見て真意を確かめる(5)相手を自分より優れたものと認める
<高1>露骨に (1)ためらいがちに(2)おおげさに(3)あらわに(4)下品に(5)ひそかに
<高2>奔走する (1)逃げ出す(2)競争する(3)忙しく立ち回る(4)無駄な努力をする(5)大変な目にあう
<高3以上>嫡流 (1)激しい流れ(2)正当な流れ(3)清らかな流れ(4)よどんだ流れ(5)亜流
<同>憂える (1)うとましく思う(2)たじろぐ(3)喜ぶ(4)心配する(5)進歩する
<同>懐柔する (1)賄賂(わいろ)をもらう(2)気持ちを落ち着ける(3)優しくいたわる(4)手なずける(5)抱きしめる
=答えは上から順に(2)、(4)、(5)、(3)、(3)、(2)、(4)、(4)
毎日新聞) - 6月8日3時11分更新



若者の「語彙力」が低下しているという。最近何にでも責任を追及されている「ゆとり教育」のせいらしいが、実際そうなのかどうかは知らない。若者はいつの世も責められるものだ。また、スタンダードな語彙以外(流行語・最新技術用語など)が評価されないことが、正しいのかどうかも分からない。
私が考えたのは、「語彙が乏しいことの何が問題なのか」ということだった。
必要最低限の共有する語彙さえあれば、日常生活では困らない。ターザンとジェーンだって、困っていなかった。専門用語も、業務上必要ならば覚えるだろう。
「語彙力がない」とされているのは、この中間にある、慣用表現(ことわざ・格言・一般的な暗喩)や、熟語(字だけでは意味が推測できないもの)、類義語・同義語などに関してである。
この部分の密度が低いとどうなるか。読解力・理解力が低下する。文章作成時に、重複や冗長を避けた簡潔な表現ができない。その他にも、文化程度が低下するとか、知識格差が生じることで階級社会になるとか、国力が減少するとか、かなり真剣かつ悲観的な見方が多いようである。
私も、この現状を大いに憂う者の一人である。私が最も問題視するのは、このままだと「理解されないジョークが増える」ということである。
ただでさえ私のジョークは流されることが多い。実際低レベルなので仕方ないのだが、「蛇の道は邪道」と言って、「そのままじゃん」と返されては困るのだ。「そういう表現があるのか」と感心されてもまずい。
知識の裾野が広いほど、そこに咲く花の数は多く、多様になる。知識はものごとを楽しむのにも役立つ。語彙が多ければ、相手に伝わる情報の正確度が増し、一度に伝達できる量も増える。話すこと、聞くこと、読むことが楽しくなる。記事が主張するように若者の語彙が減少しているのかどうかはともかく、多いに越したことはない。


ところで、この記事を見て最初に思ったのは、「語彙力」って何さ?ということだった。辞書にもないし、IMEで一括変換もできない。
語彙が豊富であること=語彙力がある、と定義していることは想像できる。しかし、言葉の意味の正確さを要求し、その欠如を嘆くのだったら、それに造語を冠しちゃっていいのかね。「語彙量」じゃいかんの?これもちょっと変だけど。(「彙」に集まり・類集したものという意味があるため。)


おまけ「語彙力テスト」
http://www.kecl.ntt.co.jp/icl/mtg/goitokusei/goi-test.html
このテストに出て来る「ズルチン」*1って何よーいやー、とか思ってしまったよ。(バカ

*1:ドイツ語、Dulzin(商標名)。人工甘味料の一つ。針状結晶。化学式はCaH12N2O2。蔗糖の250〜300倍甘い。肝臓障害などを起こす理由で食品添加物としての使用が禁止されている。