犯人に告ぐ

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犯人に告ぐ
雫井 脩介
双葉社 2004-07
評価

火の粉 虚貌〈上〉 虚貌〈下〉 天使のナイフ 生首に聞いてみろ

by G-Tools , 2006/10/10


367ページの読み応えは、数字以上のものがある。「ああ、二段組だから……」とゆーことではない。濃いのだ。「警察小説」としての旨味を、出し尽くせるだけ搾り出したような作品なのだ。
ある男の挫折、孤立、そして彼が再び表舞台に戻り、自ら求めるもののために戦う様子を描く様子が実に素晴らしい。また、彼を取り巻く人々のコントラストに満ちた描写には、物語の背骨を支える力強さがある。保身や利己主義に基づく周囲の裏切りや、組織の中での残酷な孤立を徹底して見せ付けるかと思えば、組織の中でも決して人間味を失わず、主人公を信じて支え続ける同僚たちの存在も語られる。
まあ、読め!


六年前の誘拐事件で、巻島史彦は失態を演じた。犯人に出し抜かれ、マスコミの前で逆上し、一線から退けられた。
しかし、新たに発生した連続児童殺害事件で、因縁のある県警本部長が彼を責任者に任じる。マスコミ相手に手紙を送ってくる犯人相手に、警察もメディアを利用した操作を行うこととなったのだ。いわば、「劇場型犯罪」に対抗する「劇場型捜査」という訳だ。巻島はそのための「顔」としてニュースショウに出ることとなる。端正な顔立ち、穏やかな物腰で「お茶の間の人気者」になる巻島。
組織の中には、不穏な空気が流れる。一人だけが「目立っている」ことに対する反感。事件解決を「成果」としてしか捉えられず、己の目的のためには巻島を妨害することもためらわない上司。
また、利用しているはずのマスコミも、一筋縄ではいかない。捜査のために犯人に親しげに呼びかける巻島の姿に、反発の声が巻き起こる。組織だけでなく、社会も彼の味方とは言えなくなってくる。
遅々として進まぬ捜査。苛立つ上司。まとまらぬ証拠。混乱する組織。情報を操り、巻島を悩ませる「獅子身中の虫」……。さあ、彼は連続殺人事件を解決できるのだろうか?


「警察小説」と「探偵小説」の違いは、「足の引っ張り合い」と「組織内の陰謀」の有無にある。誰も認めてくれないかもしれないが、私の個人的定義である。
「俺の苦労も知らないで、みんな自分勝手言いやがって。もういい!俺が一人で解決してやる!」とはいかぬのが、宮仕えの悲しいところである。理不尽でも上司の命令には従い、クソ生意気でもばっさばっさと部下の首は切れない。でも、退職金と年金があるからガマンだ。
これが小説になると、この「苦労」こそがストーリーテリングの旨味になる。読み進むほどに巻島の気苦労は増し、それに伴い旨味も増える。最後の最後まで途切れぬ緊迫感と、主人公の苦労を味わい尽くそう。
まあ、読め!(please)★★★★☆