ヨーヨー

家人が重そうな袋をぶら下げて帰って来た。最近大きな買物を頼んでしまっているので「申し訳ないな」と思ったら、あにはからんや自分のおもちゃであった。しかも、飲み物のオマケである。
http://www.cocacola.co.jp/yoyo/
70年代に流行したというヨーヨーの復刻版が、当時のデザインのガラス瓶に入ったコカコーラ・ファンタ・スプライトとセットになって販売されているのだそうだ。「知らない?凄く流行ってたのに。女の子は興味なかったのかなあ?」とか言っているが、何のことはない私の方が(ちょっとだけ)若いからであろう。

懐かしい気持ちは分からないでもないが、何故6セットも買ってくるのだろう。理由は「全部で8種類+シークレット1種類」があるからだそうだ。ビギナー2種に、プロフェッショナル3種、スーパー3種。違いは何だかよく分からない。購入した6ヶは、2ヶがビギナーで残りがプロフェッショナルとスーパーだったらしい(見た目の違いがよく分からない)。「シークレットが出るまで買う」とか恐ろしいことを言っていた気もするが、人口に対するヨーヨー率をそんなに向上させてどうしようというのだ。


「これイラネ」という「ビギナー」を貰い、少し遊んだ。とても軽くて、そのせいか中々戻って来ない。ただ落として戻すだけのことが、こんなに難しいものだったろうか。それとも、大人になると「ヨーヨー筋」が退化するのか。
それでも何とか順調に上下するようになったので、猫に見せてやる(正確には「見てもらう」か?)ことにした。「ホラホラ」とやって見せると、しばらく目を丸くして観察していたが、やがて間合いを見計らい、ぱちんと攻撃してきた。猫パンチにあえなく敗れ去り、振り子運動を始めるヨーヨー。すると、上下運動していたそれまでよりもヒートアップしてパンチを繰り出す猫。ヨーヨーの存在意義は、猫の前には振り子と同じらしい。


私が猫相手に催眠術を始める頃、家人はプロフェッショナル(かスーパー)で技を磨いていた。何せ、小学生以来である(本人談)。犬の散歩がナントカ、ブランコはあやとりだからナントカとよく分からぬことを呟きつつ、物陰で特訓だ。
やがて「できた!」ということで臨時発表会が開催され、私と猫が招待された。大人しく座って見ていると、ヨーヨーが下に落ち、しばらくそこで空回りしている。「失敗?」と思いきや、そこからくるくると上に巻き戻り、再び手に収まった。猫は私の時よりも目を大きくして視線を上下させ、私も素直に感心して「おおー、スゴイスゴイ」と手を叩いた。得意気な家人は再度同じ技を繰り出し、私は猫に「凄いねー、おにいちゃん凄いねー」と話しかけ、また拍手した。(猫の前でのみ、我々の呼び名は「おにいちゃん」と「おねえちゃん」である。子供が生まれたらどうなるかは知らない。)
すると、家人は恥ずかしげに「何だかそういうの嬉しい」とか言うのであった。
思えば、普段から私はこんな風に手放しで賞賛するよりも、むしろ「分析して評価する」ようにしていた。しかし、「貴殿の今回の行動は以下の点がホニャララであるからして、下記について大いに評価するものである」と通達されるよりは、「おおーっ、スゴーイ」と言われる方がシンプルに嬉しいに決まっている。可愛げのなかった自分を少し反省する夏の夜なのであった。


日本では近世(享保頃)以降に「手車」という玩具があり、ヨーヨーの仕組みはこれとほぼ同じである。ヨーロッパでの流行が日本にも波及し、昭和初期にヨーヨーの名で大流行したことで、古い名前は忘れ去られたらしい。和製は井戸の滑車、洋物は糸巻きがオリジンなのだろうか。
ちなみに、「ヨーヨー」は英語である。綴りはyo-yo。動詞としても使い(yo-yoed、yo-yoingナド)、この場合は意見をコロコロ変えること等に用いる。
おもちゃとしての説明は、「A toy consisting of a flattened spool wound with string that is spun down from and reeled up to the hand by motions of the wrist.(平たい糸巻きに糸が巻かれた玩具。手首を動かし、手から回しつつ落としたり巻き戻して上げたりする。)」とあり、何だかわざわざ小難しく説明されているようで面白い。