赤ちゃん語がわかる魔法の育児書 カリスマ・シッターがあなたに贈る本

photo
赤ちゃん語がわかる魔法の育児書
トレイシー ホッグ Tracy Hogg 岡田 美里
イースト・プレス 2001-11-01
評価

赤ちゃんとママが安眠できる魔法の育児書 0~4歳 わが子の発達に合わせた1日30分間「語りかけ」育児 赤ちゃん語がわかる魔法の育児書 2―0〜4才しつけ編 赤ちゃんがピタリ泣きやむ魔法のスイッチ 赤ちゃんがすやすやネンネする魔法の習慣

by G-Tools , 2006/10/12



 洋モノ好きの私が次に読む育児書は、アメリカで「カリスマベビーシッター」と呼ばれる女性がものしたシリーズの一冊目である。カリスマ!ハリウッドセレブが競い合って仕事を依頼するんだって。スゴイねー。という当初の冷やかし気分は、読み進める内に雲散霧消していった。ううむ、実に含蓄豊かな内容である。


 著者が新米両親に伝える「まずしなければならないこと」のポイントは以下の通りである。
・赤ん坊を個人として尊重し、その個性(タイプ)を把握すること
・両親自身がどのような気質・順応性を持っているかを再確認すること
・赤ん坊との間に信頼関係を築くために、毎日一定の生活パターンを築くこと
・赤ん坊の「言いたいこと」を理解する適切な努力をすること


 まず、著者は赤ん坊を5つのタイプに大別する。これは便宜的分類であって、それ以上の意味はない。タイプを確認するための20の質問が用意されており、赤ん坊と日常的に接する複数の人間が回答することで公平な評価をするよう求めている。
 個性の大きく異なる赤ん坊を同じように扱っていては、問題は解決できない。気難しい赤ん坊にはそれなりの接し方を選択すべきだし、それが分かっていれば対応もよりスムーズになる(はず)。


 両親の気質を確認する目的は、子供を管理するためではなく、育児を含めた自らの生活を秩序付けるためである。自分を評価するためのチェックシートも付いている。
 後述する「生活パターン」を構築するに当たり、両親が元々計画立てることに長けているならともかく、即興的性格の人間にはそれなりの心構えが必要となる。いきあたりばったり人間である私は、日々の記録を取ることで生活パターンを徐々に構築していかねばならないだろう。ホワイトボードでも買おうかなあ。


 さて、その「生活パターン」だが、これが本書の主眼である。著者は赤ん坊には「何の次は何と決められたパターンをある程度規則正しく繰り返す生活」が必要だと主張する。重要なのは「秩序と一貫性」だとも。多忙な企業生活や、ともすれば監獄のような時間に縛られた生活をイメージするかもしれないが、これはそういったものではない。しかし、赤ん坊の好きなように生活を構築することに意味はないとも言う。この世界に来て数日の人間が、自分にとって最適なことを理解できている訳がないのだとも。
 著者が提唱するのは「E・A・S・Y」という手法である。Eating(食事=授乳)、Activity(活動)、Sleeping(睡眠)、Your Time(あなたの時間)という1サイクルを繰り返すという、一見単純なやり方だ。これを月齢に応じて時間を調整しつつ、運用する。このサイクルはほとんどの赤ん坊の要求に対応できるだけでなく、家族全体にとっても最大限のゆとりをもたらすことができる。Activityって何?体操でもさせんの?と思うが、何のことはない、低月齢では「授乳中・睡眠中でない」状態は全てActivityと分類するのだ。オムツ交換、着替え、入浴などがこれに当たる。
 著者は言う。赤ん坊は思いがけないことが嫌いで、ある程度の予測が満たされることを望んでいると。赤ん坊がいる環境は、善意に包まれてはいるものの、言葉の通じない外国にいるようなものだと。トイレに行きたいのに笑顔で山盛りの料理を出されたり、その逆のことをされたりしたら、大人だって混乱してしまう。柔軟かつ臨機応変ではあるが一定の秩序に基づく生活をすれば、このような混乱を減らすことができるのだ。


 E・A・S・Yのパターンがある程度できてくると、赤ん坊の「言いたいこと」が段々理解できるようになるという。
 赤ん坊はいきなり言語を習得しない。「母さん、あのガラガラどこにいったんでしょうね」とか話し掛けてこない。しかし、主張がないわけではない。それどころか、言いたいことだらけのようだ。
 そのため、赤ん坊は取りうる限りの手段でもって自分の意思を伝えようとする。泣いたり、叫んだりするだけではない。手足をバタバタさせ、体を曲げたり反らしたりし、舌を出し入れしすることも表現方法の一部である。それらと周囲の環境、直前の出来事などを考慮した上で伝達される内容を判断すべきなのだ。この際取るべき対応法を「S・L・O・W」と名付けている。Stop(まず止まり)、Listen(よく聞き)、Observe(観察し)、What’s Up?(どうしたのか?を判断)という順序で対応するという方法だ。
 著者は「最初のStopが一番難しい」と言う。泣いている(事実)→苦しんでいる(推測)→助けなければ!泣き止ませなければ!(誤った判断)という流れになりがちである。しかし、赤ん坊にとって泣くことは言語の一部である。伝えたいことがあって話し掛けている人間を黙らせようとするのは正しい行為ではない。また、最初にこの「声」を奪ってしまうと、赤ん坊自身が「空腹時にはこう泣く」「オムツ交換要求はこう泣く」という区別を付けられなくなる。意思の疎通はますます遅れる。そしてまた、赤ん坊が自分自身を静める機会をも奪うことになる。まず止まって見つめること。相手を尊重し、その意図を理解しようと努力すること。ここからコミュニケーションは始まるのだ。


 これらのまとめられたアドバイス以外にも、本書には膝を打つような言葉があふれている。特に、上述したような「赤ん坊が泣く=親が悪い」という考えが間違っているという説明には、目から鱗が落ちたように思えた。
 人間が自分の立場以上のことを想像するのは、実際非常に難しいことだ。赤ん坊が泣いている。自身が孤独を感じている親は、「寂しいから泣くのだ」と思いやすい。健康上の不安を抱える親は、「どこか痛いのでは?」と感じる。自分が弱点を抱えていると自覚しなければ、偏向のない観察結果を得られない。赤ん坊は親とは異なる人格であり、さらに異なる言語プラットフォームで意思を伝えようとしてくる。自分の問題や自責の念を赤ん坊に押し付けてはならない。一日留守にして帰宅して、その時赤ん坊が泣き出しても、赤ん坊は親を責めているのではない。赤ん坊はあてつけに泣いたりはしないのだ。
 そういう意味では、赤ん坊がいない人にも読んでいただきたい一冊である。公共の場所で赤ん坊が泣き出す。親は静かにさせたいけれど、当然そうそう思うようには行かない。そこで「泣かせっぱなしにしておく悪い親だ」と思わずに済むのなら、関係ない人間としてもストレスを減らすことができるだろう。
 色々な意味でためになった本だった。シリーズの別の著作も読んでみようと思う。