雪のマズルカ

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雪のマズルカ
芦原 すなお
東京創元社 2005-10
評価

月夜の晩に火事がいて あきらめのよい相談者 安楽椅子探偵アーチー 桜宵 雨鶏

by G-Tools , 2006/10/12



 「ミミズクとオリーブ」で久し振りに再会した作者による、それとは全く異なる探偵小説。「ほのぼの」とか、「心温まる」とかいう描写のまるであてはまらぬ作品である。骨の髄までとことん冷徹にハードボイルド。暴力描写が苦手な方にはオススメしない。


 里子は41歳の元保母にして未亡人。現職は探偵だ。亡夫の営んでいた探偵事務所を引き継いで3年、今ではそれなりの評判も得ている。夫が他に残したものは、心の傷と古いリボルバー
 明朗ぼったくり会計で、顧客は自分で選ぶという経営方針。ユーモアも情もあるが、それを披露する相手も自分で決める。媚びず、迷わず、へつらわぬ女探偵の行く道に、静かに雪が降り積もる。
 表題作を含む4篇によって構成される短編集。小学館から刊行された「ハート・オブ・スティール」の改題・文庫化。


 さて、冒頭で書いたとおり、実に固ゆでな小説である。主人公はとても「いい性格」の女探偵。若竹七海描くところの葉村晶をより皮肉屋に、さらにブッキラボーにしたような設定である。先日読んだ「逃げる悪女」(ジェフ・アボット)のエレンも思い出した。老いを感じ始める年齢で、なお戦い続ける道を選んだ女性の姿が重なるのだ。
 そして、描かれる事件は過酷で陰惨で凄まじい。正直、繊細な私は少しキモチワルクなった。しかし、読むに値する残酷さであることも確かである。
 思えば、ほのぼの謎解きミステリだった「ミミズクとオリーブ」にしても、事件そのものには慄然とするような悪意が垣間見えたものだ。本作では逆に、悪意と苛烈さの中に時折しみじみとしたユーモアが織り込まれており、その辺りはやはり芦原すなおだなあというところ。
 好みは分かれるだろうが、私は一息に読み終え、そしてしみじみとした思いを噛み返した。だが、全てをぶち壊すあとがきまで読んじゃって、なんか疲れた。誰ですか、この大矢博子というはしゃぎ過ぎの人は。もうちっと落ち着いた文体でお願いしますよ……。