クビキリサイクル





 登場人物が「うにー」とか「あうー」とか「ふぃーん」とか「あらほらさっさー」とか言ったり、一人称が「僕様ちゃん」だったりする小説。以上。
 という訳でもないはずなのだが、どうにもそういう感想になってしまうのは何故だろう。第23回メフィスト賞受賞作にして、最近話題の「ラノベ」風ミステリ。私にとっては新境地なのだが、フロンティアへの道をこのまま進むべきか悩む結果となった。うーん、「つまらん」とも言い切れず、かと言って読後感は決してよろしくない。どっちつかずの正統派★3つ。


 年末に読んでいた雑誌「TITLE」で、「近年の青春ミステリのなかでは最先端にある作品」として「クビシメロマンチスト」という新書が紹介されていた。
 その前作、「戯言シリーズ」第一作となるのが本書「クビキリサイクル」である。その紹介を読む前から、表紙のイラストや鏡文字のような作者名(NISIO ISIN)は知っていたが、知っているがゆえに手を出しかねているようなところがあった。これはなんだか危ないニオイがするぞ……と思っていたのである。しかし、ニンゲン柔軟性を失ってはいかん。好き嫌いを言うならまず食べねば。という訳で、試食してみた。
 まず目を引くのは、何と言ってもその「文体」である。いや、正確には「会話文体」か。語り手である「ぼく」こと「いーちゃん」(♂・本名不明)が描写する情景・状況や、彼自身の心情はさほど「異常」な文章によるものではない。(ちょっとくどいけど。)だが、彼の友人にして十代の美少女天才工学者「玖渚 友(くなぎさ とも)」の一人称が「僕様ちゃん」なのである。うに、で、あう、なのである。
 次に特徴として感じたのが、いらいらするほど反復される「いーちゃん」の「青春の悩み」である。彼は自身を中途半端で人間的に何かが欠けていると思い、それに悩んでいる。最後まで明かされない過去の出来事や、友である玖渚への複雑な感情についてもずーっと煩悶し続ける。えーい、鬱陶しい兄ちゃんだなあ、と思う私は、青春からはるか離れてしまっているのだ。
 この二点を見ると、「読書するイマドキの若人」に受けるのも頷ける。1981年生まれの作者は、正に自分自身の言葉で作品を作っているということだろう。それが好きか嫌いかと言えば、こういう文体や登場人物は嫌いである。読んでいて恥ずかしくなる。だが、ひとまずは最後まで読めた。後半は結構熱心ですらあった。私を引っ張っていたのは、秘密と謎である。
 本書は密室トリックを中央に据えたミステリである。天才ばかりが客として集められた孤島で起きる、連続「首切り密室」殺人事件。容疑者が天才の割に、密室トリックの一つは稚拙(自称「ミステリ嫌い」の家人に尋ねても正解を言い当てるほど)。他はふーむ、なるほど、というところ。意外性と驚きもそれなりにある。しかし、「最後の一ひねりのもう一ひねり」みたいなのは何だかな。
 また、いーちゃんと玖渚の気になる過去や、癖のある登場人物のその後なども秘されるほどに魅力的で、なるほどシリーズ化されるだけのことはある。これとこれとこれが気になる……という心残りが、読者を次作へと導くのだろう。確かにウマイ。今のところ「すぐ読みたい!」とまで気分を動かされはしないのだが、その内思い出して読んでしまいそうな気がする。