神も仏もありませぬ



photo
神も仏もありませぬ
佐野 洋子
筑摩書房 2003-11
評価

by G-Tools , 2006/10/17



 先日、産後の手伝いを頼んでいる実母が(病院見学ついでに)遊びに来てくれた。日頃話し相手に飢えている私は、ここぞとばかり接待し、喋りまくった。そのせいで、肝心の用をいくつか忘れてしまったくらいである。まあいいや。(いいんだろうか……。)
 さて、母は正統派の「文学少女」(の数段階上)である。当日持ち歩いていた雑誌は「文學界」。その他にも、「群像」なんかも読んでいるらしい。福武が文学から撤退する以前は「海燕」だって読んでいた。「最近注目の作家は?」と聞くと、「平野 啓一郎はよく読む」とか恐ろしいことを言う。娯楽第一主義の私とはエライ違いである。こういうハハオヤを持つと、こういうムスメになるものなのだろうか?


 しかし、共通点皆無というわけではない。それに、「そんな作家知らん」と言っているばかりでもよろしくない。そこで、いくつかの「オススメ」を聞き出し、その場で図書館に予約を入れた。(インターネット予約に祝福を。)その内の一冊が、本作である。


 気付いたら63歳になっていた著者が綴る、人生の美しさと残酷さが詰まったエッセイである。世界広しと言えども、この文体、この文章は佐野洋子にしか書けないだろうなあ。私は読みながら時に腹を抱えて笑い、時に耳まで真っ赤になりながら泣いた。短時間でコロコロ変わる私の様子を、家人は気味悪げに見ていた。細かいことは申し上げない。ただ、これこそが「読むべき本」というものだと、心の底から思う。
 文学少女(現役・退役を問わず)にも、娯楽原理主義者にも、普段エッセイなど読まぬ人にも、等しくオススメしたい。★★★★★