砂漠



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砂漠
伊坂 幸太郎
実業之日本社 2005-12-10
評価

by G-Tools , 2006/10/17



 青春小説の新たな金字塔……と言うのは大袈裟かもしれない。しかし、素直に「おもしろい!」と言える佳作である。私にとっては、伊坂幸太郎「久々のヒット」である。★★★★☆


 (いつもどおり)仙台のとある国立大学の同じ学年で出会う、五人の男女の物語。時に冷たいと言われるほどクールな主人公、お調子者の軟派な男、彼のかつての同級生だったおっとりした女、道行く人が振り返るような美女、そして機会あらば演説を始める超変人男。彼等は時に共に買物に行き、合コンに出かけ、ボーリングに熱を上げ、麻雀に勤しむ。バイトもすれば、恋もする。授業に出たり、サボったりもする。ある意味、あなたや私が過ごしたのと大差ない学生生活を送る。
 だが、そこはやはり伊坂幸太郎なのだ。「それだけ」ではない。何があるのかは、是非ご自分でご確認いただきたい。「この人がこうでね、これが伏線でね、最後にはこうなるの」と言うのはカンタンだが、それではこの小説の醍醐味は伝えられない。それに、今ちょっと陣痛始まっててツライし。


 タイトルの「砂漠」は、変人男の語る「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」という言葉から。「できる訳ないじゃん」ではなく、せめて何かできないだろうかと悩むことこそワカモノのレーゾンデートルなのかもしれない。
 余談ではあるが、ある人物が「砂漠に雪を」と願う場面では、遠藤敏子による下記の名台詞を思い出した。
 「アラスカでさ、吹雪に遭うだろ。俺達は、雪を止ませる事はできないけど、温め合うことはできるじゃないか」。うーん、友情。