ベルカ、吠えないのか?



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ベルカ、吠えないのか?
古川 日出男
文藝春秋 2005-04-22
評価

by G-Tools , 2006/10/17



 戦争と暴力と陰謀に彩られた20世紀を、「イヌ」の視点で回顧する風変わりな小説。一つの世紀を覆いつくすイヌの系譜をとくとご覧あれ。


 1943年、日本軍が放棄したキスカ島に四頭のイヌが取り残された。日本軍の軍用犬である二頭のジャーマン・シェパードと、一頭のアイヌ犬。そして、日本軍が米軍から鹵獲(ろかく)したアメリカ軍籍のジャーマン・シェパード一頭。そこから、全てが始まる。米軍が彼等を連れ帰り、また途中で放棄し、そして繁殖させ、売り買いされ、系統樹はどんどん枝を伸ばしていく。それがいつかペレストロイカによって大きく変革するソビエトへと物語を繋げる時、そこに一人の少女と老人が現れる。
 国家は国民を置き去りにして変貌することに躊躇しない。一つの思想、ある体制が消え行く時、それに身を捧げてきた人間はどこへ行くのか。幾つかの愚かな戦争・紛争を経て、人間は次に愚かな平和へと入っていく。策謀と暴力に身を捧げてきた人間は、その時どう生きればいいのか。そして、イヌたちはどこに?
 古川日出男独特の強烈な文体で綴られる、血と硝煙の薫る前世紀の物語。楽しくもなく、美しくもないエピソードが、これほどまでに魅力的なことに驚嘆した。読む価値あり。大いに。★★★★☆