尻尾のある星座


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尻尾のある星座
村田 喜代子
朝日新聞社 2005-10-13
評価

by G-Tools , 2006/10/17


 私は犬を飼ったことがない。実際の犬とはどういうものなのか(うららを飼うまで実際の猫について分かっていなかったのと同様)、まるで知らない。しかし、犬を扱った小説や随筆には目がない。クーンツの「ウォッチャーズ」なんて、何度読んだことか。本書は、小説家である筆者が、犬と暮らす日々を綴ったエッセイである。噛みつかれ、引きずられ、無視され、たかられ、壊されても、なお犬と共にいることを選んだ生活の様子と、心に去来する様々な思いがしみじみと描かれている。
 犬を愛する全ての人に。そして、ラブラドール・レトリバーに手を焼く全ての飼い主にも、オススメ。


 筆者は、一匹目の飼い犬を失って数年後、出来心でラブラドールの子犬をもらってしまう。しかし、それが地獄の日々の始まりだった。
 いたずらっこの子犬(ユーリィ)は、激しい噛み癖をいかんなく発揮、筆者と夫は手足も服も穴だらけになってしまう。どう躾けてもいうことを聞かず、インターネットで方法を探すと、出て来るのは同じような悩みを抱える飼い主たちの悲鳴ばかり。
 しかし、この苦労を語る筆者の描写は決して暗くはない。犬のイタズラに真っ向から立ち向かって、失敗してはがっかりし、成果を上げればしてやったりとほくそ笑む。また、ユーリィの姿にかつて同じ庭に遊んだ亡き犬を思い出し、犬たちの個性の差に驚き、しみじみと過去を振り返る。
 そんな月日を過ごす内、ユーリィに変化が訪れて……という「ラブラドールがやってきた」及び、犬を始めとする動物や、動物にかかわる人間たちへの思いを綴った「尻尾のある星座」の二部構成となっている。


 私は知りもしないくせに、「犬は人間の永遠のパートナーなんだよね」などと言っている時がある。本書にある犬たちの忠義や思慕を語るエピソードを読むと、じんわりと感動してしまう。
 はてそれでは猫はどうなのだろう、とくるくるととぐろを巻いて眠るうららを見ると、永遠とかパートナーとか、そんな小さなものは気にしないのだといった風情である。たぶん、猫はカミサマの一種なのだろう。人間なんかと対等ではないのだ。でも、友情はある。きっと。


 ところで、私は恐竜も好きである。恐竜の心温まるエピソード……なんてものは知らないし、求めてもいないが。そんな恐竜好きには、筆者が住む北九州市自然史博物館は(彼女の描写によれば)えらく魅力的である。一度行ってみたいものだ。