読書記録(2006年6月)



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CSI:科学捜査班―コールド・バーン
マックス・アラン コリンズ Max Allan Collins 鎌田 三平
角川書店 2006-02
評価

by G-Tools , 2006/10/20



ラスヴェガス市警科学捜査班の活躍を描くシリーズ三作目。なんと「吹雪の山荘」ものである。トリックや動機などよりも、捜査手法がクローズアップされているため、解決してしまうと若干興が落ちるのが残念。


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ルート350
古川 日出男
講談社 2006-04-18
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by G-Tools , 2006/10/20



親に放棄された三人の少女が、家の中をさまよう一匹のハムスターと暮らす。「魔法の王国」のネズミの呪術にかけられた少年少女の出会い。消えゆく都市の光にそれぞれの方法で対峙する三人の高校生。人生初の休暇で、何故か飯田橋を旅する男。伝承されるメロディーを奏でる都会のインコたち。このような魅力的な素材を、アクの強い文体、クライマックスを放棄するような演出で提供する短編集。
とことん合わない。実を言うと、8篇中2篇は読んでいない。てゆーかもう読めないんで、投げた。材料が揃ってさあこれから、というところで物語が終わるのに耐えられなくなったのだ。文体にも相性の悪さをつくづく感じた一冊だった。




ミステリのようでホラー、ファンタジーのようでSF、幻想文学のようでまるでコントの台本……奇妙な作品ばかりの短編集。最後の2ページに落涙せずにはいられなかった「さあ、みんなで眠ろう」が気に入った。
タイトルを目立たせることを二の次にしたような表紙絵が素晴らしい。「犬は勘定に入れません」、「輝く断片」の松尾たいこ氏のイラスト(及び装丁)が大好きだ。


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陽気なギャングの日常と襲撃
伊坂 幸太郎
祥伝社 2006-05
評価

by G-Tools , 2006/10/20



最近映画化もされた「陽気なギャングが地球を回す」の続編。
前作同様、ここまで面白いものをこんなに楽に読んでいいんだろうか?と思うような作品に仕上がっている。一度提示した伏線を、全て回収していく技は実に見事。こんなこと当たり前だけど、でもできていない作家は多いのだ。丁寧な仕事に感謝。あっという間に読める、非常に気楽な一冊。


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柳生雨月抄
荒山 徹
新潮社 2006-04-25
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by G-Tools , 2006/10/20



山田風太郎を期待して読んだら、「嫌韓論」?という不思議な時代物。
豊臣から徳川へと権力が移行しつつある時代。柳生一族の傍系で陰陽師の幸徳井友景(こうとくいともかげ)は、柳生新陰流の剣の技と、父譲りの心霊能力を備えた美青年。彼は奇妙な縁で、日本征服を企む朝鮮の妖術師と、彼が派遣してくる数々の妖怪と戦うこととなる。行く末、朝鮮の地で彼を待つのは、もう一人の知られざる柳生剣士だった……というお話。
ぬけぬけと荒唐無稽な点では、確かに山田風太郎を想起させる点もあるが(モスラだの、オスカルとアンドレだのが出て来るし)、何よりも詳細に語られる朝鮮半島史及び史観が本作の特色。ちょっとその比重が大きすぎて辟易する部分で★一つ減。結局大事なのは恩とか友情じゃなくて、血と出自なんかい、というオチにも少々なんだかな。
内容には全く関係ないが、どーしても気になることが一つ。文中で一箇所だけ、とある女性の分泌物を称して「煮汁」と表現していることだ。その後は(いかにもそれらしく)「華汁」とか書いてあるのに、一箇所だけ「煮汁」。なんで煮汁……とかあんまり悩みすぎると、いいかげん私の神経を疑われそうなので、このくらいにしとく。でも、なんで煮汁……?


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99999(ナインズ)
デイヴィッド ベニオフ David Benioff 田口 俊樹
新潮社 2006-04
評価

by G-Tools , 2006/10/20



文章を書く才能には、様々なものがある。中でも私が憧れるのは、「映像的な文章」の才だ。一読するだけで眼前に描写されたものを想像できるような文章。手触りや香り、温度や湿度を感じたように錯覚できる文章。この作者には、間違いなくその才がある。(映画の脚本を書いているそうだが、それが当然に思える。)匂い立つような雰囲気を行間に含む短編集だ。
いつもなら「オチ重視」の私だが、この作品には謎が全て解ける結末や、カタルシスが充足されるグランド・フィナーレはない。それで構わない。ごく小さな着地点が最後に用意されていて、そこに立って上を見ると、それまでの物語が星のように天蓋を彩っている。長い長い誰かの物語のある一部分を、極めて巧みに切り取ったような感がある。「ルート350」とは異なるのは、この小さな着地点があることだ。
乾いた感情が何故か心地よい表題作、内気な青年がNYを走る「獣化妄想」、幸福な思い出を支える細い骨の正体を知る「幸せの裸足の少女」、そして「幸運の排泄物」の4編が特に秀逸。
ジュンパ・ラヒリの「停電の夜に」が好きな方には、強くオススメ。


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Mr.パーフェクト
リンダ ハワード Linda Howard 加藤 洋子
二見書房 2001-04
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by G-Tools , 2006/10/20



主人公ジェインは、30歳で独身。週末に会社の同僚でもある友人三人と集まり、おしゃべりするのが習慣だ。ある時、その集まりで「完璧な男」について語り合った四人は、冗談でその条件を集めた「リスト」を作成する。その内容は、「誠実であること」や、「適度に裕福であること」、の他に「長さは10インチ(25.4cm)」や、「30分は持続できること」(「なんのことですかあ?」とか質問しないように。分からなくてもお母さんに聞いたりしないように。)などの項目を含んでいた。
 完全に内輪の冗談で作ったこのリストが、ひょんなことから広く知られるようになってしまい、ついには全国ネットのTVニュースで放映されるまでになる。大受けして賛同する女性、フェミニズム運動の視点から非難する女性、決まり悪げに眉をひそめる男性、「試してみないか?」と誘いをかける男性……様々な反応がある中、一つだけ異色なものがあった。それは、殺意。狂気に満ちた怒りを内に秘める殺人者が、彼女たちへと近付いてゆくのだった。
というお話。これに、口の悪いジェインとケンカばかりしている内に、いつの間にか恋の炎がメラメラになってしまうイケメン警官とのロマンスが絡んでくる。15ページに一回はいちゃいちゃしている。うんざりするから数えないが、実際にはもっと頻度が高いかもしれない。
ヒジョーにベタな展開の「ロマンス小説」である。ロマンス小説のほとんどがミステリなのは、困っているヒロインがヒーローに助けられる、という設定の都合上である。そのため、本作もミステリのパートはお手軽である。読みなれた人なら、犯人当ては即座にできる。
想定される読者は20代後半以上の女性のみなんだろうなあ。ティーンは無論、男性が読むなんてまったく考慮してないだろうなあ。でも、ある種女性のファンタジーなので、男性諸氏は読めば勉強になるかもしれない。ただし、日本人女性の好みとはちょっと違うかもしれないが。
ともあれ、「おいおい」と突っ込みながら楽しく、あっと言う間に読める。傑作でも秀作でもないが、実に楽しい「凡作」である。翻訳のセンスがどーにもすばらしいのも突っ込みどころ。ヒロインの口の悪さを翻訳するのに苦労されたとのことだが、「ばかったれ!」「嘘こくな!」「オタンチンの薄らトンカチ!」などの台詞(全てヒロインのもの)には大笑いした。「嘘こくな」って……。あー、面白かった。


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刑事の墓場
首藤 瓜於
講談社 2006-04-18
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by G-Tools , 2006/10/20



面白い!ページを開いたが最後、そのまま数時間で読み終えた。
ある県の、「刑事の墓場」と呼ばれる所轄署「動坂署」が舞台。県警内で、表沙汰にできない不祥事を起こしたもの、有力者から疎まれた者、しかし解雇はできない厄介な刑事たちの「島流し」に利用されている小さな警察署である。そこに飛ばされて来た主人公は、異動は何かの間違いで、自分はいつか県警本部へと栄転できるはず……と信じる警部補。同僚たちは変人揃いで、「墓場」にいるのが当然かもしれないが、自分はあいつらとは違う。
そんな状況下、所轄内である殺人事件が発生する。従来、重要事件は隣接する中規模署が捜査し、動坂署は無視されてきた。しかし、何故か今回は動坂署に捜査本部が立つことになる。誰の思惑か、何が目的か……。
警察小説の醍醐味は「足の引っ張り合い」である、という(私の)セオリーを、とことん楽しめる作品である。雑魚扱いされてきた男たちのリベンジをとくとご覧あれ。イレギュラーな設定が多いため、捜査がいーかげんなのもご愛嬌である。
でも、最後のところはよく分からん。続編へのつなぎなのかな?


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スコットランドヤード・ゲーム
野島 伸司
小学館 2006-06
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by G-Tools , 2006/10/20



つまらん。なんでつまらんのか分からんくらい、つまらん。

このボードゲームになぞらえて、偶然出会った男女の恋を、24日以内に収束させる……という物語である。以下内容に触れつつにブツブツ言うので、読むつもりの人はご覧にならぬように。

物語の中心にあるのは「恋人の死」、失ってなお相手を思い続けるということだ。これを、中盤である人物が「恋している一人が取り残されるという意味では、失恋と一緒さ」と言う。ただ、死別の場合は周囲の目が「美しい物語に殉ずる」ことを暗に望むのだと。その視点を無責任だと。
もっともである。「未亡人」という言葉に含まれる、気味の悪い物語(未だに亡くなっていない人!)が嫌いな私は大いに共感した。短い台詞の応酬ばっかりで、ページの下半分が白くて詩集みたいでも、帯にある賞賛の言葉が発行元の営業担当者と「小説は苦手です」と言う芸人の二人きりでも、この部分だけで評価に値すると思った。
しかーし、それを踏まえて、最終的に主人公の取る行動がさっぱり理解できない。上記のような話をしておいて、何故そんなことするんだ?分からん!愛する人を守るために「有事の時には戦うぞ!」、といきなり張り切るのも分からん。戦う相手にも「愛する人」がいるだろうに、それはどーでもいいのか?お前には想像力というものがないのか?それとも「愛に命を賭けている」ことを表現するためには手段を選ばないのか?迷惑なんだよ、そういうの。
ラブストーリーが守備範囲外なので、物理や数学が苦手なように、抑えるべきツボが見えていないだけかもしれない。私が恋する19歳だったら、「ちょー泣ける」と素直に喜んで読めたかもしれない。「はず(筈)」を全部「ハズ」とカタカナで書かれても、ヒロインが自ら雨に濡れて「私、世話が焼けるの」と抜かそうが、ちいさく小首を傾げようが、いらいらせずにいられたのかもしれない。
でも、私は既にちょー三十路だし、「愛に命を賭ける」のはパフォーマンスじゃねーんだよ、ということを最近ようやく知ったので、登場人物の繰言には堂々と腹を立てることにした。そんな訳で、面白くなかった。ただ、「スコットランドヤード・ゲーム」はちょっとやってみたくなった。


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2ちゃんねるで学ぶ著作権
牧野 和夫 西村 博之
アスキー 2006-07-03
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by G-Tools , 2006/10/20



著作権とは何か。ウェブサイトでそれを利用、または保護する場合にどのような点に注意すべきなのか。そういったテーマを、「2ちゃんねる」を材料に説明する一冊である。元アップルコンピュータ法務部長でもある牧野和夫弁護士と、2ちゃんねる管理人の西村博之氏、そして編集者による座談会形式になっているため、質問と回答を分かりやすく読むことができる。編集者が司会に留まらず、自ら疑問を投げかけたり、提案をしていくというスタンスを取っているのも効果的に働いている。
さらーっと読めて、中々興味深かった。「電車男」の著作権はどのようになっているのか?過去ログを集成した「まとめサイト」は著作権を侵害しているのか?などは、多くの人が知りたい点ではないだろうか。最終的に2ちゃんねるの「投稿規約」を、牧野弁護士のアドバイスを元に変更していく様子は、単なる実用書の枠を超えた面白さがあった。
内容には無関係だが、ひろゆきの一人称ってほんとーにオイラなのね。


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にわか大根 猿若町捕物帳
近藤 史恵
光文社 2006-03-23
評価

by G-Tools , 2006/10/20



私の行きつけの図書館には、どなたかステキな司書さんがいらっしゃるようだ。特集本のコーナーや、オススメ本の掲示のセンスが大変よろしい。児童書の特集が「ねこのほん」だった時は、嬉しくてあれこれ手に取った。「ねこのシジミ」という絵本が特によかった。これはちょっと余談である。
さて、本作は同館の「帯でオススメする新作」のコーナーに出ていたものである。帯を並べて貼り、そこにメモ程度の紹介文が付く。好奇心をそそられて思わず借りてしまった次第である。
主人公は、江戸南町奉行所同心玉島千蔭。見てくれは中々だが、とにかくとことん堅物。のまない、うたない、買わない。しかし、そんな彼の周囲には一癖変わった人々が自然に集まってきて、そして時々事件が起きる。日常では小さな、ほとんどはほのぼのとした。だが、時に捕り物に繋がるような人死にが知らされることもある……。
帯を見て多少予想はしていたが、案の定シリーズものの最新作だった。垣間見える前日譚も非常に興味深いが、途中からでも充分面白い。ストーリーは推理部分を含めて完成度が高いが、それ以上にキャラクタが秀逸である。吉原に行っても仏頂面で茶をすする千蔭、そんな彼をからかいつつも時折思慕を除かせる梅が枝太夫、妖艶な雰囲気を漂わせるミステリアスな役者巴之丞、父の後妻でわずか17歳の「母上」お駒……配置と組み合わせの妙も素晴らしい。
作者の小説は短編(「この島でいちばん高いところ」)を一作読んだことしかなかったが、それはどうもピンと来なかった。あの掲示の紹介がなかったら、この本も読もうとは思わなかっただろう。縁は異なもの、ありがたいもの。