読書記録(2006年9月)





安心のマンネリシリーズ。登場人物の造形が整ってしまうと、あとはそれを誇張するしかなくなっていくのが、シリーズものの難しさだろうか。でも、あっさり読めてそれでいて飽きないのは嬉しいところ。


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戦闘美少女の精神分析
斎藤 環
筑摩書房 2006-05
評価

by G-Tools , 2006/10/20



オタクじゃない私には、とても興味深い内容だった。
しかし、文章がとにかくクドイ。学術論文じゃないんだから、出展を明らかにしたり、語意を限定したりするのではなく、もーちょっとスッキリまとめてほしかった。
あと、TVドラマ「スケバン刑事」に触れた箇所で、原作では麻宮サキはセーラー服を着ていないと書いてあるけど、ちゃんと着ていますよー。何故か中にタートルネック着用ですが。


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少女七竈と七人の可愛そうな大人
桜庭 一樹
角川書店 2006-07
評価

by G-Tools , 2006/10/20



これはすごい。美という異形を宿命付けられた少女の、愛と煩悶と旅立ちを描くストーリー。「田舎町」旭川を舞台に、ギリシャ悲劇のような、シェイクスピアのような、壮大な家族のドラマが語られる。
登場人物の造形が素晴らしい。奇妙な生い立ちゆえに孤立し、余りに美しすぎるために遠ざけられる美少女、川村七竈(ななかまど)の趣味は、鉄道模型の蒐集。唯一の友人は、これまた美貌で、これまた鉄道マニアの少年、桂雪風。二人の会話はこんな感じ。
「ほら、七竈」
「キハ五百億M」
「嗚呼!」
「スーパーよぞら!」
「嗚呼!」
「81カシオペアα号!」
「嗚呼!」
「キハはいいね。七竈」
「うん、いいね。雪風
こんな会話のどこが壮大なんだと突っ込まれそうだが、その辺りはぜひ実際に読んで確認していただきたい。私は最後に泣きました。


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福家警部補の挨拶
大倉 崇裕
東京創元社 2006-06-27
評価

by G-Tools , 2006/10/20



倒叙ミステリで最も有名なのは、なんと言っても「刑事コロンボ」ではないだろうか。日本において、その「こども」としては、「古畑任三郎」が良く知られているが、ここにもう一人、「こども」と呼べそうなキャラクタが登場した。その名は福家警部補。コロンボ同様ファーストネームがなく、コロンボ同様一見警察官には見えない。徹夜をいとわず捜査に当たり、犯人の残したわずかな痕跡から犯罪を立証する。4篇収録の短編集。
読後の印象は、「まあまあ」である。すいすいと読めて面白いのだが、残念ながら福家警部補本人の魅力が充分発揮されていないように思えるのだ。連載小説の常で、毎回警部補がいかに警官に見えないかをアピールする部分があるのだが、続けて読むと若干食傷気味になる。これを繰り返すよりは、少しずつ警部補のプライベートな部分を見せていく方がいいと思うのだが。
(解説の小山正氏は、「もう少しキャラクターに色気がほしい」「コロンボのかみさんやドッグやプジョーといった、個性の彩りという意味の色気」とコメントしている。余談だが、この解説はとても面白かった。)
難癖付けたが、続編が出たら迷わず読むだろう。また、作者の別の作品も読んでみたくなった。


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ダーウィンの剃刀
ダン シモンズ Dan Simmons 嶋田 洋一
早川書房 2004-12
評価

by G-Tools , 2006/10/20



ハイペリオン」も「エンデュミオン」も読んでいないのに、こんなの読んでしまいました。
上記大河SF作品で有名な作者による、うーんこれはどういうジャンルになるんだ?アクション小説?そんなのあるか?とにかく、ドンパチだのカーチェイスだのスナイパー対決だのてんこもりの話である。
表題の「ダーウィン」は、進化論の人ではなく、主人公の名前である。彼の職業は事故復元調査員。事故現場を検証することで、パズルを解くようにその原因を突き止めることを生業にしている。ある日、愛車NSXで走行中に、見知らぬ男たちから銃撃される。辛くもその場を逃げ切ったダーウィンは、ある巨大な陰謀の渦中に巻き込まれていく……というお話。
事故復元調査の話は実に興味深かったが、ドンパチ部分は正直退屈だった。これは作者の責によるものではなく、私がこの分野に興味がないからである。「エリア88」だって銃器と航空機の解説は飛ばして読んだくらいなのだ。そのため、この手の話が好きな方には、詳細な描写で語られる戦闘シーンや武器の解説等は魅力的だと思う。
悲しみを背負った主人公の造形は中々。彼の魅力だけで、ご飯三杯はいける……じゃなくて、ストーリーがしっかり支えられている。


以上5冊。他には実用書数冊に目を通したが、別に感想を述べるほどのものではなかった。