ちょっとだけトロい

nekonomimi2006-12-03



かん子さんのはいはいが台所に及ばぬよう、「ベビーフェンス」なるものを設置した。洋間の引き戸の前に取り付けて、それ以上の進入を阻止するのが目的である。引き戸全面をカバーする幅を要したため、ゲートが開閉するタイプでは間に合わず(幅が狭い商品しかなかった)、大人が跨いで通る簡易タイプを選択した。
商品の高さは65cm。身長163cmの私が、よいしょと足を上げて通れる高さである。タイトスカートなどはいていると、ちょっと大変かもしれない。身長70cmのかん子さんは、つかまり立ちしても目が覗く程度で、反対側に落っこちる心配もない。仕切りはメッシュになっていて、視認性も良好である。
ああ、これで背後を気にする度合いが減って楽になったし、かん子さんも締め出されるよりはずっといいだろう。と、家族全員の幸福を寿いでいたのだが、どうもうららの様子がおかしい。


台所の方へ行きたそうにうろうろするのだが、いっかな飛び越えようとしない。もう一度書くが、高さは65cmである。160cmくらいある家具の上に、軽々と飛び乗る猫なのだ。これが飛び越せぬ道理はあるまい……と思うのだが、所在なさげにフェンスの内側をうろうろと歩くばかりである。抱き上げて、台所の方に下ろし、洋間の方から煮干(うららの好物)を見せてみる。情けない声で「にゃあああーん」とぼやくばかり。後ろ足でひょいっと立ち上がり、こちらの様子を伺う動作はするのだが、やはりフェンスを飛び越えようとはしない。
今更だが、うららは猫である。しかし、ちょこっとだけトロい猫なのだった。目算を誤って着地点より手前に落っこちたり、カーブを曲がり損ねて壁にぶつかったりすることがある。それでも、この程度の高さに手こずるとは思いもしなかった。考えてみれば、今まで「飛び乗った」ことは何度もあるが、「飛び越える」という動作は経験が少ないのかもしれない。
洋間のベンチをフェンスのそばに寄せ、その上に煮干を置き、ぽんぽんと座面を叩いた。ここまでおいで、の合図である。着地点をフェンスの高さに近付ければ、飛び乗るのと同じ感覚で行けるのではないだろうか。二、三度ためらった後、うららはぽんと飛んで、一度フェンスの上に軽く乗ってから、ベンチの上に降りた。やはり、「飛び越える」のはちょっと怖いようだ。
ベンチの上に落ち着いた猫は、煮干をむしゃむしゃと食べ、ついでのように私の指を軽く噛んだ。「変なもん置かないでよ!」と言いたかったのだろうか。それとも、照れ隠しだろうか。