まとめレビュー



10月分から、読書感想文を書いておりませんでした。ということで、三か月分まとめてざざーっとアップ。長いです。


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美食の道
立原 正秋
角川春樹事務所 2006-02
評価

by G-Tools , 2006/12/30

とんでもねーおっさん。とブツブツ言いながら読んだ。もー、とにかく鬱陶しいパーソナリティをお持ちの方である。
奥さんが美味しいものを作っても、決して褒めないと決めている……というくだり。

「おいしい料理だが、私は家人の腕をほめたことがない。こうしたのをこしらえるのが当然だからである。」
「『きのうの高菜はおいしかった』……『さようですか。たまには子供の目の前でほめてくださいな』家人はこのように答えたが、たぶん私は、子供の目の前で家人のこしらえたくいものをほめることは、今後もないだろう。」

よくできた奥さんだ。私なら「ハァ?」と言う。高菜を口の中にぎゅうぎゅう詰め込んでしまうかもしれない。他にも、奥さんと外出した折に入った店で、若い娘の乳首をつまんで遊んでいたら「ああいうことはなさらないでください」とか言っちゃう奥さんでもある。そんだけですかい。しかし、ここまで来ると、奥さんの性格以前に書き手の甘えが臭って、どうにも辟易する。
筆者が紹介するレシピは興味深く、薀蓄は非常に面白いが、悪童ぶった、そのくせ「当世の若い者は……」というような人間性がおそろしく鼻につく。
それにしても、料理ができる、味が分かる、というのを鼻にかける男性は多いが、女性に余り聞かないのは何故だろう。ふしぎ。
小説家のエッセイを読むと、作品を読みたくなるときもあるが、拒否感を持ってしまうこともある。今回は後者。


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砂漠で溺れるわけにはいかない
ドン ウィンズロウ Don Winslow 東江 一紀
東京創元社 2006-08
評価

by G-Tools , 2006/12/30

「おまけ」のような、「ニール・ケアリー」シリーズ最終作。
コミカルだった前作(ウォータースライドをのぼれ)以上にコミカル。生死を賭ける場面が出て来るのは相変わらずだが、タッチはあくまでも軽く、深刻になりようがない。シリーズ中最も短いストーリーでもある。前作で〆ても問題はなかったと思うのだが(むしろその方が半端な印象を持たずに済んだかもしれない)、ともあれ私の望みはほぼ果たされた。「シリーズの終わりに、ニールが幸福でありますように」。


ミネット・ウォルターズはいつも読んでいる間はこれ以上ないくらいに面白いが、何故か読後しばらくすると、どんな話だったかすら忘れてしまうことがある。なんでかな?
作者の力量が活きた「記憶喪失モノ」である。ヒロインはまだらな記憶のせいで、犯行現場を見ているはずなのに、犯人を思い出せない。周囲に現れるのは、どこか怪しい人ばかり。ヒロイン本人のことすら信用がならない。名前と存在感ばかりが浮かび上がる彼女の父親は、物語の現場に決して姿を見せることがない。サスペンスの道具立てを恐ろしく巧みに用いた、中々のミステリ。


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うそうそ
畠中 恵
新潮社 2006-05-30
評価

by G-Tools , 2006/12/30

期待していた「しゃばけ」シリーズ最新作にして二度目の長編だが、残念ながらつまらない。複数の登場人物の行動とその理由が理解しがたく、こじつけっぽく感じられるのだ。最も重要な「お比女ちゃん」の心情が、どーにも理解しにくいので、話全体が散漫な印象になってしまった。
凝縮すれば、短編に納まったのではないだろうか?


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名もなき毒
宮部 みゆき
幻冬舎 2006-08
評価

by G-Tools , 2006/12/30

退屈せず読ませる手腕、安定した人物描写はやはり見事。しかし、石持浅海を読む時と同じようなことを感じた。「犯人の動機を理解できない」。
前作(誰か)でわずかに描かれた、主人公の内に潜む静かな不和の種が若干大きくなっているように思える。これを、今後どうやって育てていくんだろう?というのが暗くとも興味深いところ。


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ドリームバスター〈3〉
宮部 みゆき
徳間書店 2006-03
評価

by G-Tools , 2006/12/30

これはまんがなんだ。だから、書き下ろしなのに「PART1」だけが収録されて、続きは「待て次号!」ってことになっちゃうのだ。ううー、この手法でいつまで引っ張るつもりだー。「つまんなーい」と放り出すほどでもないが、「いつまでも待つわ」と殊勝な気分になるほど愛することもできない。イライラしながらでも待機中、という厄介な関係になりつつある。大長編大河小説になりませんように。


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仙人の壺
南 伸坊
新潮社 2001-08
評価

by G-Tools , 2006/12/30

中国の怪異譚を、紙芝居風のまんがで描いたもの。実に面白い。怪異譚ってこういう突き放した、説明を放棄したようなところがある方がリアリティ湧くなあ。
シンボーさんのまんがを初めて読んだが、絵と余白の用い方の余りの巧手に驚く。


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お鳥見女房
諸田 玲子
新潮社 2005-07
評価

by G-Tools , 2006/12/30

よくできた奥さんの話に弱いので、読んでみた一冊。連作短編集。
もっと明るい話(単身赴任中の夫/職業はスパイ/を尋ねてくる客人の相手をする内に、事件を解決する若い人妻)かと勝手に思い込んでいたのだが、まるで違った。中々しっかり生活感のあるストーリーである。奥さん若妻じゃなくって孫までいる年だし。
ここの家族の行く末が気になるので、シリーズの続きも読んでみることとする。興味のある方は、下記2つを読まれぬように(ちょびっと内容に触れています)。


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蛍の行方―お鳥見女房
諸田 玲子
新潮社 2006-10
評価

by G-Tools , 2006/12/30

沼津に潜入したまま行方知れずになった夫、伴之助を待つヒロインと、その家族(含居候)を描く、シリーズ二作目。肉親の不在がもたらすものを核に、家族全員がそれぞれに相手を思い合うエピソードが続く連作短編集。
エスピオナージのパートは中々スリリングで、手に汗握った。


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鷹姫さま お鳥見女房
諸田 玲子
新潮社 2004-09-18
評価

by G-Tools , 2006/12/31

役目から生還した伴之助の心の傷を核に、家族それぞれの変化を描くシリーズ三作目。
縁談あり、新たな恋の始まりありと、ラブストーリー多めの一冊。


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ピアノ調律師
M.B. ゴフスタイン M.B. Goffstein 末盛 千枝子
すえもりブックス 2005-08
評価

by G-Tools , 2006/12/31

字の多い児童向け絵本のようで、実は大人のための短編小説(と私は勝手に判断)。
両親を亡くし、ピアノ調律師の祖父と暮らすデビーの夢は、いつかおじいさんのような調律師になること。でも、祖父は彼女がピアニストになることを望んでいる。ある日、おじいさんの古い仕事道具を持ち出したデビーは……さあ、何をしたのでしょう。
長い物語の最初の数ページのようなストーリーである。ドラマチックな要素はとても少ない。ただ、幼い少女が、自ら望むものへと小さな第一歩を踏み出す、ある一日を描いている。そこには愛情と幸運が溢れており、彼女自身の強い意志と共に、この先の(書かれていない)物語に訪れるであろうハッピーエンドを支えている。
作者の手による挿絵が、実に素晴らしい。繊細だが、同時にシンプルで力強く、何気ない一瞬を切り取る業は実に秀逸。
また、祖父の豊かな愛情、孫娘の彼に対する強い尊敬の念が、ストレートに飾り気なく描かれており、イヤミがないのも中々のものである。作者の他の作品も読んでみたくなった。まずは、娘用に「ブルッキーのひつじ」に興味あり。


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青猫家族輾転録
伊井 直行
新潮社 2006-04-27
評価

by G-Tools , 2006/12/31

私が本を選ぶ理由の中に、タイトルに「猫」が入っているというとてもしょーもないものがある。そんな理由で手に取った一冊だったのだが、これが大当たりであった。今年読んだ「最も気になる本」(「コーデックス」を二位に押しのけて!)。
書き出しの文章が気に入ったので抜粋する。

初めに断っておいた方がいいと思うのだけれど、僕は十七歳でも二十歳でも、また今の世の中ではまだ成人前だという説もある三十歳ですらなく、だれも美しいとは言わないし、なりたくてなった人間は滅多にいないという五十歳もうかうかと通り過ぎて、現在五十一歳の男なのである。

(ということで、本作のオビのコピーが間違っているような気がしてならない。)
その51歳の「僕」は、17歳の娘とのすれ違いに悩む父親でもある。数年前の僕は、バブルとそれ以降の企業と社会相手に奮闘するサラリーマンだった。そして、かつて17歳だった僕は、夏休みに会った変わり者の叔父に、彼の奇妙な経験談を聞かされていた。
これらの複数の「僕」(と叔父)の物語が、ランダムに語られることで見えてくる「何か」を描く一風変わった小説である。描いているモチーフは多岐に渡る。家族、社会、エロス、アガペー、経済、企業、公正、正義、結婚、離婚、生死……。時間や場所を頻繁に行き来し、多くの事柄を語ってはいても、ストーリーは何故か散漫にならず、読む者を最後のページまで確実に誘う。
読み終えてすぐに、もう一度読みたい、と思わせる不思議な小説だった。また、自分がこういうものを面白いと思えるとは知らなかったので、まだまだ発見の余地があると分かったのが嬉しくもある。


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愛の探偵たち
アガサ・クリスティー 宇佐川 晶子
早川書房 2004-07-15
評価

by G-Tools , 2006/12/31

戯曲「ねずみとり」の原作である「三匹の盲目のねずみ」*1ミス・マープルもの4篇、ポアロもの2篇、ハーリ・クィン氏ものである表題作1篇で構成された短編集。
「三匹の……」を読んでつくづく感じたのだが、クリスティって本当に雰囲気を作るのが巧い。雪に閉ざされた屋敷に殺人犯が潜むという要素と、夫婦すら互いから孤立し、猜疑心を深めていく描写は実に素晴らしい。
時に「それだけ」になってしまい、推理ものとしては穴だらけなこともある。(「三匹の……」にも突っ込みどころは多い。)にもかかわらず、退屈せず読ませるのだから、ムードを醸し出す業がよほど優れているということだろう。
ミス・マープルものでは、「申し分のないメイド」が出色。物語の中に指紋捜査が登場するのにちょっと驚き。
ポアロもの2篇は、先にドラマ化されたものを見ていたので、ドラマの方の演出に感心した。小説よりもずっと出来が良い。
クィン氏ものは初めて読んだが、今一つ。話は面白いのだが、クィン氏に主人公としての魅力を感じないため。


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六死人
S=A・ステーマン
東京創元社 1984-01
評価

by G-Tools , 2006/12/31

5年前、大金持ちになる夢を胸に、世界中に飛び立った6人の青年。再会のために帰国の途に着く彼らの一人が行方不明になったのを皮切りに、一人、また一人、何者かによって次々に殺害されていく……というストーリー。
6人の内、誰が犯人なのか?という着想だけで書き上げたような印象を受けた。アイデア一本勝負の、無駄(というか余裕)のない構成である。
しかし、6人の内2人と、彼らにかかわる謎めいた美女一人をクローズアップした演出は的確で効果的。
1931年の作である。古臭く感じるのも、こういった作品の後継を読みなれているが故だろう。「クリスティの『そして誰もいなくなった』より18年早く書かれた」というのが惹句のようなのだが、こう書かれては、中身がだいぶ見えてしまうのが残念なところである。


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ジョナサンと宇宙クジラ
ロバート・フランクリン ヤング Robert F. Young 伊藤 典夫
早川書房 2006-10
評価

by G-Tools , 2006/12/31

1977年6月に刊行されたものの新装版。ロバート・フランクリン・ヤング(1915-1986)の手による、SFの姿で語られる、人間ドラマに満ちた短編集。どの作品も、郷愁と懐古趣味にあふれており、冒頭の「九月は三十日あった」には文明批判すら感じられる。作者が描きたかったのは、科学技術ではなく、純情と良心とリリシズムか。
1900年代半ばのSF作品には(個人的印象としてはこのジャンルで顕著に)、女性を二種類に分けるパターンが多いように思える。欲し、主張し、誘惑する悪女と、耐え、黙し、待ち続ける乙女に。この二つの要素を併せ持つ女性などあり得ないかのように。本作にも、あえてカリカチュアライズしたようなこの分類が幾つか見られた。しかし、「いかなる海の洞に」に描かれる女性像は、血肉を伴い、読む者に痛みを覚えさせるほどの存在感を持って描かれている。また、「ジャングル・ドクター」に描かれるヒロインの造形は、現代でも新鮮で魅力的である。
猫好きには「ピネロピへの贈りもの」、犬好きには「リトル・ドッグ・ゴーン」をオススメする。けれども、私が最も感銘を受けたのは、上掲の「いかなる海の洞に」である。異類婚の行き着く先を、ここまで悲しくも幻想的に描く作品を他に知らない。
SF短編を愛する(てゆーか何故か長編が読めない)私の、今年の一押しである。


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春期限定いちごタルト事件
米澤 穂信
東京創元社 2004-12-18
評価

by G-Tools , 2006/12/31

小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?……というのが、「春期限定……」の裏表紙粗筋である。
高校生の日常に絡む謎を扱う、ラノベ風ミステリの連作短編である。殺人なし、前提条件の多いパズル風謎解き多し。
「小市民を目指す」。なんて傲慢なんでしょう。おーきかろーがちーさかろーがみんな市民なんだよ。衆への埋没を志すなんて、不遜ではないか。しかし、ストーリー自体はそんな主人公が自らを見直すという展開を見せて、二作目へと続いた。そんなら読んでみるか、と私も付き合った。
「夏期限定……」では、連作短編という構成を巧みに用いた展開で、シリーズを続ける気があるのかないのか思わせぶりなエンディングを迎える。「秋期限定特製モンブラン事件(勝手に仮題)」では、語り手を小鳩君から小佐内さんに変えて、新たな視点で小佐内さんの心中を聞かせてほしいものである。


「カワハラの愛読書の中から選んだ どれもおすすめの作品です。楽しんでくだされ。」という一文紹介に尽きるアンソロジー

  • ロビイ(アシモフ・ハヤカワ文庫版)メロウで(SF特有の)懐古趣味に溢れた古典。何度読んでもありきたりのパターンに感動する。
  • おはよう寄生虫さん(亀谷了)寄生虫恐怖症なので、読めない。
  • 水素製造法(かんべむさし)オチに唸るが、登場人物以上に科学の素養がないので、充分楽しめないのが残念。
  • 言葉の戦争1(清水義範)いかにもこの人らしい掌編。いうなれば、読む落語。
  • 品種改良(田中芳樹)銀英伝以外を初めて読んだ。翻訳モノ風に書いているのが、なんとも時代を感じる。内容は……ちょっとキモチワルイ。
  • ヤマナシの実(日本民話)「いけや、ターンタン。もどれや、ターンタン」というフレーズが猛烈に頭に残る。カワハラ氏は「この話に意味や教訓を求めるのはやめよう」と書いているが、あれこれと解釈・想像したくなるお話である。
  • ヘリコプターの飛ばし方(非日常研究会)サイコー。本当に、微に入り細を穿って手取り足取り「飛ばし方」を教えてくれる。妄想と明るい杞憂を愛する全ての人々に捧げる……って感じ。あなたもいつヘリ操縦が必要となるか分からない。コレを読んで備えるべし。
  • 大うずまき(エドガー=アラン=ポー)古典。私はこういう作品はピンと来ない。
  • 歴史新聞(歴史新聞編纂委員会)ある時代に世界中で起きた事柄を、一枚の新聞にまとめる形で読ませるというアイデアが秀逸。世界史・日本史という学科としての分類が、歴史という大きな視点を矮小化しているのかも、と思った。



アンソロジーの興趣は、選者の本棚を覗き見る快感を含む。コレを書いているこの人は、こういうものを読んできたのか……ということを知るのは実に面白い。
巻末には「おすすめブックリスト」と「カワハラ邸潜入記」も付いている。



  • かぼちゃの馬車(星新一)いかにも星新一の、皮肉な結末。男性が書いたものではあるが、女として何だか身につまされた。
  • 大正時代の身の上相談(抄)(カタログハウス編)私はジェネレーションギャップを(あんまり)笑えない。
  • ながい鼻の小人(アンドルー=ラング/川端康成・野上彰訳)翻訳者に今更驚いた、私も子供の頃読み耽ったシリーズ。伏線をどんどん張って、そのほとんどを放置する「民話的」ストーリーに笑った。
  • うぐいす荘(アガサ=クリスティ/厚木淳訳)クリスティの短編で、私が二番目に好きなもの。(一番は「リスタデール卿の謎」。)ハヤカワ文庫版を読みなれているせいで、創元推理版の本作にはなんだか違和感がある。
  • 水晶(アーダベルト=シュティフター/手塚富雄訳)これはすごい!!!無駄に思えるほど克明かつ執拗に続く情景描写が、文章の中に強い存在感を伴う世界を作り上げる様子に驚嘆した。
  • 原始生活百科(抄)(関根秀樹編著)原始生活におけるレシピを再現。
  • ムスティク砂ばくへいく(ポール=ギュット/塚原亮一訳)主人公のムスティク少年が現代に実在したら、間違いなく注意欠陥多動性障害リタリンを処方されそうである。親の心配や世間の常識に捕らわれず、ただ子供の想像力を中心に形作られた冒険物語。児童文学にはこういうものも必要なのだと思う。



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死の猟犬
アガサ・クリスティー 小倉 多加志
早川書房 2004-02-20
評価

by G-Tools , 2006/12/31

幻想怪奇をテーマにした11篇と、戯曲「情婦」の原作である「検察側の証人」を収録した短編集。
クリスティにとってのオカルトとは、(本気でハマッていたドイルとは異なり)ロマンティックな演出のための小道具に過ぎないようだ。また、その使い方が巧く働いた時の効果の強さは中々である。外れた時はすげー退屈ですが。
精神医学を入り口に、オカルトへと進むタイプのストーリーが多いことに関する解説(風間賢二)が大変興味深かった。フロイトブーム⇒意識下の発見⇒心理の探偵としての精神科医の台頭、という図式になるというのである。同時期の地底探検ものの流行や、考古学人気にもこの影響があるというのがまた面白い。
「検察側……」は久し振りに読んだが、やっぱりすごい。実は映画を未見なので、今度機会があったら見逃さぬようにしたい。

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監禁
ジェフリー ディーヴァー Jeffery Deaver 大倉 貴子
早川書房 2000-09
評価

by G-Tools , 2006/12/31

久し振りにディーヴァーを読んだら……なんかぐったりするほど疲れた。残酷シーン耐性が落ちたような気がします。
神に憑かれた牧師アーロン。彼は神への生贄として少女を誘拐、朽ちかけた教会に監禁する。置き手紙から当初は家出と思われたが、状況に不審な点を感じた少女の父親テイトは、元妻とともに娘の行方を追う。テイトの協力者を悪魔的な機知で次々始末していくアーロンが最後に目指すものは?狂気に満ちた誘拐犯と追跡者たちの二つの物語が交錯したとき、驚愕の真相が!……ということで、いかにもディーヴァーらしいサスペンスである。キャラクタ設定もこなれている。しかし、作者の最高傑作とは言いかねる。犯人にしても、捜査する側にしても、運と偶然に頼った展開が多いために、読んでいてすんなり納得できないのである。
それでも、やっぱりディーヴァーだなあ、と嬉しくなったのは、「驚愕の真相」の内容と、死んで欲しくなかった登場人物を生かしておいてくれたことである。読者サービスがうまいなあ。


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最後の一壜
スタンリイ エリン Stanley Ellin 仁賀 克雄
早川書房 2005-01
評価

by G-Tools , 2006/12/24

今年は優れた短編集に特に恵まれた。その余波で、amazonに推薦された本書も、期待を裏切らぬ逸品であった。
エゼキエレ・コーエンの犯罪 ★★★★☆ 最後に泣けた。
拳銃よりも強い武器 ★★★☆☆
127番地の雪どけ ★★★★☆ 明るくブラック。こういうの好きだ。
古風な女の死 ★★★☆☆ 悪意に満ちた構成に感心。
12番目の彫像 ★★★☆☆ 力作ではあるが、あまり好みではない。
最後の一壜 ★★★☆☆ 同上。
贋金づくり ★★★☆☆ おじょーず。
画商の女 ★★★★☆ 某アンソロジーで読んで以来、大好きな作品。コレを書いた人だったのかあ。
清算 ★★☆☆☆ 世代のせいか?ピンと来ない。
壁のむこう側 ★★★★☆ おじょーず。
警官アヴァカディアンの不正 ★★☆☆☆ なんでしょう、これは?
天国の片隅で ★★★★☆ 「127番地……」に通じるテイスト。これも好きだ。
世代の断絶 ★★★☆☆ 主人公をここまでオロカにした設定の勝利。読者をイライラさせるのも、ワザの内か。
内輪 ★★★☆☆ うまいかもしれないが、残念ながら好みではない。
不可解な理由 ★★★☆☆ 一つの企業に長く務めている中間管理職の心胆寒からしめる作品。これは怖い。


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九時から五時までの男
スタンリイ エリン Stanley Ellin 小笠原 豊樹
早川書房 2003-12
評価

by G-Tools , 2006/12/31

「最後の一壜」が大変面白かったので、一つ前の短編集を読んでみた。意外なことに、こちらは私にはイマイチであった。「これはいい!」という作品が一篇もなかったのだが、退屈した訳でもない。一年に数冊、こういった感想の付けようのない本に当たるが、年の最後に読了したのがこれというのが皮肉なところである。

*1:「盲目」に違和感を覚える。「三匹のめくらのねずみ」じゃダメなのか。