配達あかずきん

【商品紹介・内容(「BOOK」データベースより)】
「いいよんさんわん」―近所に住む老人に頼まれたという謎の探求書リスト。コミック『あさきゆめみし』を購入後、失踪した母の行方を探しに来た女性。配達したばかりの雑誌に挟まれていた盗撮写真…。駅ビル内の書店・成風堂を舞台に、しっかり者の書店員・杏子と、勘の良いアルバイト店員・多絵のコンビが、さまざまな謎に取り組んでいく。初の本格書店ミステリ、第一弾。

ごくシンプルに面白く読める連作短編集。「書店」という、身近な割に知らないことの多い世界を覗き見る楽しみもある。(実際には、未経験のどんな業種にもこの手の「覗きの楽しみ」はあるのだろう。)本好きの読者には、共感を覚えるエピソードも多い。
惜しむらくは、明快に書き分けられた登場人物(特に主人公の杏子と探偵役の多絵)に、何故か個性が感じられないこと。しっかり者で読書好きの杏子、特に本好きではないが頭脳明晰な多絵、という設定がそれ以上の存在感を見せないまま話が進むのだ。メインは謎解きなので、それが差し支えるということはないのだが、話を気に入っただけに、もっと彼女達と親しくなりたかったなあ、というのが残念なところ。
実名で紹介される本が多く、その内何冊かを読んでみたくなった。また、25冊の「ミステリ・フロンティア」を配本順に並べた表紙デザインは秀逸!こういうの大好き!装丁は岩郷重力(+WONDER WORKZ。)。最近いいなと思うことの多いデザイナーさんである。


さて、ここからは本作内容とは直結しない話。本作中の一篇を読んで、しみじみと考えたことである。
私には、ずーっと憧れているシチュエーションがある。それは、「本から始まるラブストーリー」である。自分で書いててちょっと恥ずかしいけど。
例えば、いつもの通勤電車。実際とは異なるが、ボックス席の車両が望ましい。そして、毎日窓際の席で本を読む私に、よく向かい側の席に座る男性が声を掛けるのである。「その作家お好きなんですか?」とか、「いつも面白そうな本読んでますね」とか、そういう内容である。実は私も相手の読む本が気になっている。そうして互いの好きな作品などの話題に花が咲き、私達は手持ちの本を貸し合ったりして仲良くなるのだ。薦められた作品を読むことで、相手の人間性を垣間見て恋に落ちるのだ。どうだ、やっぱり書いてて恥ずかしいぞ。とても33歳で妄想するようなことではない。
吉野朔実の「橡(つるばみ)」(「いたいけな瞳」2巻収録・小学館文庫)に、これに似たようなエピソードがある。こういう状況に憧れるようになったのが、それを読んで以来なのか、それより前からなのかは思い出せない。「橡(つるばみ)」では、通学電車で見かけるマルケスサリンジャーを読む少女に、少年がこう話しかける。
「もしご迷惑でなければ」
「ほんとうに迷惑でなければでいいんですけど」
「その本 読み終わったら、ぼくが今読んでるヤツと取り換えてもらえませんか?」

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エレンディラ
ガブリエル ガルシア・マルケス 鼓 直 木村 栄一
筑摩書房 1988-12

by G-Tools , 2007/01/14

うおおおおお、ステキだ。ステキすぎる。どうして電車内で私に話し掛けてくるのは、ヨッパライとヘンタイと検札の車掌さんだけなんだ!
しかし、ここで我と我が身を振り返ってみると、私が通勤途上で読んでいるのはマルケスでもサリンジャーでもない。真善美とか人生の意味とかを扱うような作品はあまりない。主として好んでいるのは……死体がゴロゴロしているような話である。そんな小説の表紙を見て話しかけてくる人がいるとしたら……ううーん、もうちょっと外で読む本の傾向を変えようかな。