はじめの一歩

nekonomimi2007-02-12

かん子さんが歩いた。


かん子さんは、遊ぶ時にモノを散らかす。おもちゃや絵本を全部引っ張り出し、部屋のあちこちに改めてセッティングする。気付くと、パソコンデスクの上にカエルとゾウとトラとウサギが整列していたりする。モザイクかタイルのように、絵本が部屋の一角に敷き詰められていたりする。
「きちんと片付けなさい」「遊ぶものだけ出しなさい」などと言っても聞くものではない。しかし、あれこれと些事が積み重なって気が立っている時に、ハデにモノが散らかった床を見ると、なんとも切なくなる。
今晩、そんな風にやや不機嫌な私は「もうっ!」と言いながら、おもちゃを拾い集めて片付けていた。かん子さんは、少し離れたところでカエルとゾウを両手に持って、すこぶるゴキゲンであった。もう一度「もうっ」と言ってかん子さんをにらむと、彼女はすっくと立ち上がって、笑顔で両手に持ったおもちゃを振って見せた。
そして、私の方に向かって歩いてきた。
一歩、二歩、満面の笑みで、声を上げながら。三歩、四歩、腕を振って、バランスを取りながら。
私に向かって歩いてきた。
涙の流れるに任せたまま、私は彼女を抱きとめた。これは成長の一過程で、偉大な躍進で、そして別れの始まりでもある。自らの意志で移動し、望むところを目指して行く第一歩なのだ。いつか彼女が私の前から立ち去っていく時、私はこの日のことを思い出すのだろうか。
なんてことを思いながらしみじみしていたら、鼻を刺激する異臭があった。ウンチが出て、オムツを替えて欲しくて歩いてきたようだ。
そんなもんだよな、と苦笑しつつ、かつてなく晴れがましい気分でオムツ換えをした。


かん子さんの移動速度が上がり、うららさんには脅威が増したことになる。

しかし、相変わらず優しく我慢強い猫である。毎日かん子さんに鼻を寄せて挨拶してくれる。耳を掴まれても動じず、爪を立てることもない。
様々な好意や愛情に支えられ、日々成長しているかん子さんである。