文学刑事サーズデイ・ネクスト 3だれがゴドーを殺したの?(上下巻)

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文学刑事サーズデイ・ネクスト 3 上 (3)
ジャスパー・フォード 田村 源二
ヴィレッジブックス 2007-01
評価

文学刑事サーズデイ・ネクスト 3 下 (3)

by G-Tools , 2007/04/06

【商品の説明・内容紹介 その1】
ようこそ、摩訶不思議な〈ブックワールド〉へ。
主人公連中がお待ちかねです。
あらゆる小説要素が入り乱れる〈ブックワールド〉に飛び込んだサーズデイ。
脱走ミノタウロスの追跡や誤植ウイルス増殖に奔走するがそこであらたな敵が!
この想像力についてこられるか!?スゴすぎるシリーズ第三弾。



楽しみにしているシリーズの最新刊(翻訳版)である。第一作から読むつもりの方は、ここから先ネタバレにご注意あれ。

【商品の説明・内容紹介 その2】
わたしはサーズデイ・ネクスト。ついこのあいだまで、イングランドで暮らす一介の「文学刑事」だった。
ジェイン・エアを誘拐した文学破壊凶悪犯ヘイディーズを倒し、ポーの『大鴉』の中で、卑劣な巨大企業ゴライアス社と対決したはいいが、ひきかえに愛する人をうばわれてしまった。
しかも記憶を操る怪女エイオーニスから、兄の仇と命を狙われる始末。
そんなわたしに、『多いなる遺産』の豪快なブックジャンパー、ミス・ハビシャムが助け舟を出してくれた。
普通は現実世界の人間が入れない〈ブックワールド〉に匿ってくれるという。
『ロビンソンクルーソー』の島で過ごすか『高慢と偏見』の中で優雅なドレスをまとうか迷ったが、怪しげな未完の小説のなかでしばらくのんびり身を隠すことにした。しかし運命はわたしに休息を許してくれないらしい。
小説世界でも刑事をやるんだよと、ミス・ハビシャムのしごきが始まった・・・・・・。
ヒースクリフから植物怪獣トリフィッドまで、文学オールスター勢揃いの〈文学刑事シリーズ〉第三弾!

いやあ、今回もサーズデイの冒険は面白かった。
第一作で辛い過去を乗り越え、愛するランデンと結婚。(その間に、凶悪犯と対決し、「ジェイン・エア」に入り込み、その内容を改変する。)第二作で、ランデンの存在を「根絶」させられてしまい、また自らも彼女を敵と狙う相手に命を狙われる。(その間に、天地創造やハルマゲドンを体験する。)そして、続く本作では、避難先での生活を中心に、「愛する人を失うよりも辛いこと」に懸命に立ち向かうサーズデイの姿が描かれる。(その間に、大猫に食べられそうになったり、新任務に就いたり、「嵐が丘」の激情カウンセリング・セッションに出席したりする。)前二作を読んでいる方ならば、間違いなく楽しめる。特に、「嵐が丘」が好きで、ヒースクリフ萌えの諸姉には面白いんじゃないかな。それとも、立腹なさるだろうか……?


第三作には、私にとって今までと異なる点があった。それは、作中で扱われる文学作品を読んでみたくなったことである。これまで、「ジェイン・エア」も「大鴉」も読もうとは思わず、実は今回も(日本語副題の)「ゴドーを待ちながら」を読む気はないのだが(何せ十数年前「ゴドー」の存在を知らずにゴドーは待たれながら*1を先に読んじゃったからなあ)、作中に登場するある人物とお近付きになるべく「大いなる遺産」を読んでみたくなったのだ。

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大いなる遺産 (上巻)
ディケンズ 山西 英一
新潮社 1951-10

by G-Tools , 2007/04/06

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大いなる遺産 (下巻)
ディケンズ 山西 英一
新潮社 1951-10

by G-Tools , 2007/04/06

おお、ディケンズ!ちょーブンガクじゃね?ディケンズなんて、子供用の「クリスマス・キャロル」しか読んだことないよ!うーん、読めるかな。「赤と黒」を1ページめで放棄した前科があるからなあ……。


今回、サーズデイは辛い別れを経験する。難題は次々に降りかかる。しかし、彼女はそれらを乗り越える。
イギリスの小説に描かれる現代女性は、困難な状況下でもユーモアを忘れず、いじけて自虐的になりつつもやはり前向きであることが多い。三十代半ばのサーズデイは、限りなく荒唐無稽な世界において、真に現実味にあふれ、実に共感できる愛すべきキャラクタである。イギリスにはこういう女性が多いのだろうか?いいなあ、イギリス人女性。
次回作(の翻訳)が実に待ち遠しい。田村源二様、どうぞよろしくお願いいたします。

*1:

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ゴドーは待たれながら
いとう せいこう
太田出版 1992-04

by G-Tools , 2007/04/06