ペンギン、日本人と出会う

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ペンギン、日本人と出会う
川端 裕人
文藝春秋 2001-03
評価

by G-Tools , 2007/08/08


内容(「MARC」データベースより)
自然環境下では1羽も棲息していない日本が、北半球随一の「ペンギン大国」に成長した理由とは? 日本人がいかにペンギンと出会い、愛するに至ったか、ペンギンをめぐっていかに奇妙な想念にとらわれてきたかを掘り起こす。

本書が書かれた時点(2001年)で、日本でのペンギン飼育数は約2400羽。全ペンギン種18種中、12種を擁する。世界の飼育者間では、日本は「北半球のペンギン王国」と呼ばれているという。
本来、ペンギンは南半球にのみ棲息する鳥類である。南極から赤道直下まで、その棲息域・環境は幅広い。そんなペンギンが、何故日本で多く飼育されているのか。それどころか、18種中最も絶滅に瀕しているフンボルトペンギンは、野生種(1万2千)の一割(1200羽)が日本各地で飼育され、その数を増やしているといった現状はどこに端を発するのか。また、ペンギン会議ペンギン基金といったNGO、団体を抱え、各国のペンギン研究者や保護活動に資金援助したり、それに属する日本の飼育者が自主的に生息地を訪れるなどの、おせっかいなほどの活動をしている理由は何故なのか。野生動物を人工的な環境で展示・飼育する不自然さ、保護するために彼等の生息域へと侵入するジレンマに悩みつつ、できる限りの努力をする飼育員や研究者の姿も描かれる。そこまで、何故?
本書は、それは、私達がペンギンに魅了されているから、好きになってしまったからではないでしょうか?という切り口から、それに留まらぬ歴史や、飼育及び野生の現状までを丁寧に描いたノンフィクションである。


何を隠そう、私もペンギンが好きだ。ちなみに、鳥類では他にペリカン、哺乳類ではネコとヒト、魚類ではしらすとうなぎが好きである。
とは言っても、コレクタでもなければ、ペンギン詣でを欠かさぬ研究家でもない。漠然とした、その美しいデザインへの憧れのようなものを持っているというだけのファンである。19の夏にボーイフレンドが買ってくれたアデリーペンギンのキーホルダーは、留め具が壊れても、二人が別れても、ペンギン部分だけをずっと持っていた。ピングーのキャラクタ商品もいくつか持っている。その程度。(そうそう、本書にあったのだが、日本はピングー関連グッズの世界最大の消費国なんだそうな。)
という訳で、熱心なペンギン者には何を今更と言われるようなことに、私は一々感動できてお得であった。
例えば、こんなエピソードが興味深い。南極探検で名高い(うちの近所にお墓がある)白瀬矗(しらせ・のぶ)中尉の隊では、地上で動きのとろいペンギンは格好の食用動物として狩られていた。「かわいくて傷付けられない」とは見なされなかったのだ。しかし、その時既に隊員の一人多田恵一がペンギンに「可愛らしさ」を覚え、船上に捕獲したペンギン達に尺八を演奏して聞かせるなどしている。

ペンギン萌えのはしりと言えよう。
また、本書中で私が最も好きなのは、第6章「ペングイッシュを話した男」青柳昌宏について書かれた部分である。著者自身のアイドルでもある青柳像は、在野の研究者としての情熱を瑞々しく湛えた姿で描かれている。必読。


本書のおかげで、現在私はペンギンブームに陥っている。続けて図鑑などを閲覧中。夏休みの自由研究をしている気分である。