本を薦めるのは難しいよ(または 私は「早川さん」を笑えない)

nekonomimi2007-08-28

以前、友人が「村上春樹を読んだことがない」と言っていたので、ダブって持っていた「1973年のピンボール」の文庫本を譲ったことがあった。その人が、最近になって読後の感想を書いているのだが、そのエントリ及びコメントを読んで、本を薦めるというのは難しいものだなあ、とつくづく思った。
読書感想文を書き散らかしては、「オススメです」などと書きまくっている人間が何をか言っとるかと笑われそうだが、それとこれとは違うのである。「世間」という漠然としたものに向けて推薦するのとは異なり、友人知人に「これ面白いよ」と実物を渡して言うのはちょっと難しいのだ。それは、「私を見て!知って!好きになって!」と言うのにも似た、ちょおおおおおおこっぱずかしい行為になり得るのである。


まず、本を薦めたがる人間には、「自分が楽しめた=みんな楽しめるはず」という思い込みがある。しかも元から読書家だったりすると、本を読むことが当然の行為だと思っている。読みなれていると早読みになりがちである。そのため、面白い本を貸したら、遅くとも一週間以内には読み終えると信じている。読み終わったら感想を述べ合い、熱く語りたいと思っている……が、こういうのって実は非常に鬱陶しいのである。
他人が自分と同じように楽しめる保証は全くない。そもそも、例え先方から「何か面白い本ないかな?」と聞かれたとしても、それは熱意の表れなんかではなく、単なる社交辞令である可能性が高い。ましてや、頼まれもしないのに「これはいいよ!」と押し付けても読むわけがない。一週間どころか、一年たっても手付かずになりかねない。感動の押し売りをされるのも勘弁願いたいが、一番厄介なのは(ごくまれに)実際に読んで感想を言った場合の反応である。「面白かったよ」「どこが?」「○○が△△して、××なところが良かった」「えーっ、そこなの?ポイントずれてない?もっと☆☆が◇◇するとことか、□□が××なとことか……」自分と違う意見を認めないのである。「つまらなかった」などと言った日には、「読み方が間違っている」「読み込みが足りない」「違う作品も読めば理解度が上がる」などと、更なる推薦図書ラッシュになったりする。
(とまあ、これは私の過去の悪行なんだがね……。今では深く反省しているので、社交辞令は聞き流し、気心の知れた遠慮のない相手としか本の話はしないことにしている。)
悪意はないのだが、おせっかいは時に悪意以上に鬱陶しいのである。
これが本でなくても、既製品を扱う趣味のもの(音楽・映画等)は同じようなことになるのだろう。


さて、そこで早川さんである。なんのことやらとお思いの方は、ぜひこちらをご覧いただきたい。
coco's bloblog/今日の早川さん
早川量子さんはSF者(早川書房)。帆掛舟さんはホラーマニア(東京創元社/マークが帆掛船)。富士見延流(のべる)さんはラノベ好き(富士見書房)。岩波文子さんは純文学派(岩波書店)。国生寛子さんは珍本・希本収集家(国書刊行会)。これらの、各出版社イメージを体現するお姉さま方が繰り広げる、本オタクの愛と情熱と失笑の日々を描いたwebまんが。それこそが、「今日の早川さん」なのである。
文学と教養の読書家の時代は終焉を迎え、娯楽と楽屋落ちに耽溺する本オタクが世を跋扈している。(ここにも一名。)本オタクは悲しいのだ。かつては(本を読まない)人々に憧れと敬遠の目で見られていた(かもしれない)というのに、今では二次元萌えオタと同レベルの困った人々扱いである。映像すら必要としないんだもんな。変態度はかなり高い。


何故ここで早川さんの話になったかというと、何を隠そう、実は私こそが早川さんなのである。とか言っている30女はゴロゴロいるんだろうな。
私が早川さんを僭称するのには、充分な訳がある。まずは、こちらをご覧いただきたい。
これは、私が妄想しているネタ(電車の中で恋に落ちたい)とほぼ一致している。ほんと、なんでこういうことって起こらないんだろうなあ。私は中学生のときから毎日のように電車を利用して、大学生になってからは毎日本を読んでいるが、こんなこと一度もないよ。不思議で仕方ないよ!
また、こちらなんて、私がかつてしたことと違うのは書名くらいのものである。
そうなんだよ、私は自分でも気付いていなかったけど、実は早川さんなんだよ!と、まあこういうところが困った人の要素なんだよな。
ということで、早川さんの失敗を見るまでもなく、本を薦めるのは難しいのである。自分の好みを提示するという点では、他のオススメ品やプレゼントと変わらないのだが、本の場合は読み終えることを前提とする分、相手に与えるプレッシャーは大きい。映画と違って、何時間で終わると決まっていないしね。
自分の心を取り出して、これを好きになってほしいと言うのはたやすい。しかし、自分が望むような反応を得られなかった時に傷付かずにいるのは難しい。そして、言われる側だって傷付けるのはイヤなもんなのだ。


ところで、件の早川さんが書籍になる。

photo
今日の早川さん
coco
早川書房 2007-09-07

by G-Tools , 2007/08/29

オススメです!(無責任な私。)