秋のカフェ・ラテ事件/コクと深みの名推理3


【内容紹介】

当店自慢の限定カフェ・ラテ。味わう前にご注意を



コーヒーの優しい茶色にホイップクリームの柔らかな白色――
老舗コーヒーハウスの名物ラテに感動したデザイナーが作ったジュエリーは、コーヒーがテーマ。これがこの秋大流行に!新作披露宴会場になったコーヒーハウスでは華やかなモデルが闊歩する中、店主クレアもラテを振る舞うのに大忙し。
そんな時、ラテを口にした男性が急死したから、さぁ大変。贅沢でクリーミーな名物ラテが、ファッション界に大騒動を巻き起こす!

★★★☆☆
ミステリのシリーズものを、リアルに作成するのは難しい。探偵役が解くべき謎が常にあり、死体がゴロゴロ転がり、事件は規定枚数以内でめでたく解決する。大変都合がよろしい。よろし過ぎて、まるで現実的ではない。ましてや、主人公が飲食店を経営しており、そこに来る客や従業員が次々死んでいても、PTSDになることもなく、店も問題なく続いているともなると、シリーズのために死体になる人たちが不憫なくらい立派なフィクションである。
無論、リアルな設定など必要ないのだ。読者が納得できるだけの説得力さえあれば、どんなに荒唐無稽でも構わない。主人公がアリクイで、口にマカロニチーズを詰め込んで死んでいたクロシロコロブスの事件を捜査したって問題ない。探偵役がマリリン・モンローで、J・F・ケネディがパートナーで、しかもハッピーエンドになっても大いに結構。面白く読めて、ミステリとしての筋がマトモならば、の話である。
さて、それでは本作は読んで納得の世界になっているかと言うと……そうはいかない。しかし、「読んで突っ込み」の世界として楽しむことはできた。ロマンス小説風ミステリの正しい姿かもしれない。


ファッションウィークに沸き立つニューヨーク。クレアの店でもジュエリーコレクションのパーティが催される。しかし、出席者の一人で、従業員タッカーを手ひどく振ったばかりの男が、タッカーが作ったラテを飲んで急死した。マグの中からシアン化合物が発見され、逮捕・拘留されるタッカー。彼の無実を信じるクレアは、他の容疑者を探して東奔西走するが、機会と動機を備える人物は見付からないし、微妙な関係の元夫には新しい恋人の影が見え隠れするし、店にはマスコミが押し掛けるし……忙しくって大変。
思い込みと山勘で行き当たりバッタリなクレアのスタイルは、第一作目から見事に変わらない。殺人課のクイン警部といい雰囲気になってしまったものだから、本作からは別の「嫌な警官」を出して敵役に配している。「あの人たちは間違ってる!タッカーは犯人じゃないわ!」と信じるのはいいんだけど、それをベースに消去法(タッカーじゃない、それならこの人、違うの?じゃあこの人)で捜査をするものだから、どんどん容疑者にインタビューして、新事実をピックアップして……というひじょーにまどろっこしいことになる。その間にあは〜んなことがあったり、変装してパーティに行ったり(小柄で細身で40代だけど胸が大きくてセクシードレスもばっちり着こなす私、という描写が多いのが実に実にロマンス小説)、別の死体が転がったりして、決して退屈はしないのだが、探偵が運と偶然に助けられているだけなので、ミステリとしては問題あり。容疑者を山と積み上げて、結局分かった真実は……偶然音が聞こえて、偶然他の人が重要事実を教えてくれて良かったっすね。というお話だったのさ。それにしても、身近に犯罪者が多過ぎ。ニューヨークは怖い所です。
しかし、無罪放免となったタッカーが店に戻って来た時、最後まで付き合った私は何だか安心した。突っ込みつつ、粗探ししつつ、新刊が出たらまた読んでしまうんだろうな。