酔いどれ次郎八

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酔いどれ次郎八 (新潮文庫)
山本 周五郎
新潮社 1990-07

by G-Tools , 2008/02/13


内容(「BOOK」データベースより)
藩の名刀を奪い、役人を斬って薩摩藩に逃げ込んだ侍を上意討ちにする命をおびた矢作次郎八と岡田久馬。2人は首尾よく本懐を逐げるが、薩摩藩士に取り囲まれ退路を断たれる。千久馬を逃がし、その場で死んだと思われていた次郎八が2年後に藩に姿を現した時、かつての許嫁は千久馬のもとに再嫁いでいた―。次郎八のとる意外な行動を描く表題作ほか、「与茂七の帰藩」など全11編を収録。

収録作品

彦四郎実記/浪人一代男/牡丹花譜/酔いどれ次郎八/武道仮名暦/烏/与茂七の帰藩 /あらくれ武道/江戸の土圭師/風格/人間紛失

★★☆☆☆

  • 今一つな作品集。作家暦初期(昭和11〜17年)のものばかり。これほど未熟だった作家が年毎、作品ごとに円熟したと思うと感慨深い。
  • 英雄豪傑を描かないのが山本周五郎と聞いていたのだが、本書には(例外的に?)剣豪がゾロゾロ出て来る。私は、腕っ節自慢だの、喧嘩好きだのがキライなので、好きになれる登場人物は少なかった。また、どこか鬱屈してひねくれているのも大概にせーよ、と思うので、世を拗ねて酒びたりな人もお断りである。別に見合の釣り書き読んでるわけじゃないんで、好き嫌いを述べるのは筋違いなのだが。
  • 「武道仮名暦」と「与茂七の帰藩」は、暴れ者が江戸から帰藩する点が共通しており、その育ちや人柄などがよく似ているのだが、その後の展開はかなり異なる。先に「武道」を読んでいたので、「また似たような話か」と思いつつ「与茂七」を読み進めて驚いた。主人公の変化が見られる「与茂七」の方が好きだ。
  • 「風格」「人間紛失」は時代小説ではない。しかし、両方とも特に読むべきところは見られなかった。つーか、つまらん。
  • 表題作「酔いどれ次郎八」の自己犠牲や、「彦四郎実記」の士道、「あらくれ武道」、「江戸の土圭師」の夫婦愛(?)、には理解しがたいものがある。どれだけ突飛な行動だろうと、登場人物の心理に充分近付くことができれば、「この人ならばこうしてもおかしくはない」と思えるのだが、これらの作品ではいずれも「何故こうするのかまるで分からん」という気分になってしまい、まるで親近感が湧かない。残念。