深川安楽亭

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深川安楽亭 (新潮文庫)
山本 周五郎
新潮社 1973-11

by G-Tools , 2008/02/09


抜け荷(密貿易)の拠点、深川安楽亭にたむろする命知らずの無頼な若者たちが、恋人の身請金を盗み出して袋叩きにされたお店者に示す命がけの無償の善意を、不気味な雰囲気をたたえた文章のうちに描いた表題作。完結したものとしては著者最後の作品となった「枡落し」。ほかに「内蔵允留守」、「おかよ」「水の下の石」「百足ちがい」「あすなろう」「十八条乙」など全12篇を収録する。

収録作品

内蔵允留守/蜜柑/おかよ/水の下の石/上野介正信/真説吝嗇記/百足ちがい/四人囃し/深川安楽亭/あすなろう/十八条乙/枡落し

先日読んだ「内蔵允留守」は、冒頭部分がカットされた「教科書バージョン」だったので、他の作品と共に読み返すことにした。
短編ばかり続けて読んでいると、作者は、同じテーマを繰り返し書き、煮詰め、ほどき、組みなおすようなことをしているのだなあ、と思えてくる。それがどれも似たような話でつまらん、とならぬところが面白い。例えば、本書収録の「蜜柑」は、「蕭々十三年」(「おごそかな渇き」収録)に良く似ている。しかし、結末は無論のこと、読後感もまるで違う。それでいて、テーマは共通して「上司の心理を理解しよう」である(ちょっとウソ)。長年の周五郎ファンは「おっ、これは**に似てるな。ではこれはどう展開するのかな?」といった楽しみ方をしているのかもしれない。
一番好きなのは「四人囃し」。一幕ものの芝居のようで、短いながらもスリリングな展開、意外な発展に驚いた。
その他の作品では、「野分」(「おごそかな」収録)に通じる「自ら身を引く」ストーリーの「おかよ」には、正直イライラした。また、「十八条乙」には違う意味でイライラしたが、それ以上に夫婦の物語として感慨深く読んだ。「真説吝嗇記」には大いに笑った。
印象的な文章を幾つか抜き書きする。

その人と夫婦になったら、はなれるんじゃあねえぞ、どんなことがあっても、いっしょに暮らすんだぜ
(深川安楽亭

夫婦のかたちもいちようではない、どんなにうまくいっている夫婦でも、或るときひょっと狂ってしまうことがある。一心同体というのは言葉で、本当には育ちも性分もまちまちな、女と男がいっしょにくらしていれば、いい事ばかりはないのが自然であろう、それがうまく納まるか、だめになってしまう場合もある。
(枡落とし)

がー、へむ、へむ
(真説吝嗇記)

次は何読もうかな。