お父さん、怒鳴らないで―殴られるより苦しいよ!

お父さん、怒鳴らないで―殴られるより苦しいよ!お父さん、怒鳴らないで―殴られるより苦しいよ!
毎日新聞生活家庭部

径書房 2003-11
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内容紹介/Amazonより
ささいなことで大声を出し、家族を威圧するお父さん、「テメェー、バカヤロー」はやめてください。大切な家族を怒鳴りつけて、うれしいのですか?あなたの家族は泣いています。傷ついています。『毎日新聞』に寄せられた96人の投書をまとめる。怒鳴る夫、怒鳴る父について寄せられた多くの投書は、言葉がいかに人の心を傷つけるかを物語っていた。

図書館の「特集棚」*1で偶然見つけた一冊。この時のテーマは「家族」だった。向田邦子のエッセイ、育児本などが一緒にあった。
その中で、この一冊を手に取ってしまうというのが、どうにも困った「趣味」である。私は、暴力を主題とした物語に、いかんともしがたく惹かれてしまう。
実際に暴力を振るうことにも、振るわれることにも興味はないし、スポーツとして昇華された暴力であるところの格闘技にもまるで関心はない*2。自分が日常的に暴力を受けていたこともないし、さらに言うならば、子供の頃にお尻を叩かれた以外に、力と痛みによって制圧されたこともない。
そんな「お気楽な」私が、暴力を行使される側が語る物語をよく読む。私はこんなことされなくて良かった♪と思って読むのではない。いつかこうなった時の用心に、と実用書の目的で読むのでもない。自分が暴力を行使する側に立つまい、という思いはあるが、そのために何冊も読むなんてことはしない。嗜虐的に読んで欲情してるんでもない。もちろんない。とか熱弁するほどヘンタイっぽいけど、違うんです、裁判員の皆さん、信じてください!


自分でも、なぜなのかは分からない。分からないなりに、まじめに読む。本書も、大変に興味深かった。手を上げることがなくても、言葉の暴力がいかに人間(本書では主に女性と子供)を萎縮させ、蝕むかを、様々な体験談を連ねることで描いている。家庭の中で罵られ、大声に怯える生活を続ける苦悩が綴られる。
別れればいいのに!と多くの方が思われるだろう。実際に、夫からの面罵に耐えられず、子供を連れて家を出た女性による投稿もある。怒鳴る父のいる実家には帰らない、と決意する女性もいる。しかし、多くの投稿者は、熟年を過ぎた女性であり、萎縮と諦観により現状に留まらざるを得ない。彼女達を、勇気がないと言って責められようか?
今回最も関心を引かれたのが、「怒鳴る側」の論理である。私は怒鳴る夫/父ですが、ごめんなさいが照れくさくて言えないのです。解決方法は怒鳴られる側にしかないので、そちらの方で対処してほしいんです。怒鳴る側も気の毒なんですから、怒鳴らせる振舞を慎めば良いんですよ。などなど。なんと「無邪気」なのだろう。言葉の暴力を侮り過ぎだ。
しかし、本書に登場する父や夫は、自らをモンスターと自覚してはいないだろう。私も、きかん気の娘に怒鳴る。いーかげんにしなさい!早くしなさい!静かにしなさい!そう怒鳴る私は、自分を暴力的だと思っていない。だが、そうだろうか?密室の中で一方的に正義の怒りを爆発させることは、虐待ではないだろうか?以て他山の石としたい。
印象的な箇所を抜き書きする。

もし人生をやり直すことができたなら、今度は両親の仲が良く、笑いの絶えない家庭に生まれたいなあ。家族そろって夕御飯を食べながら、一日の出来事を報告してみたい。
そして、その時の両親は…やっぱり私のお父ちゃんとお母ちゃんがいい。

暴力が奪うのは特殊な何かではなく、ごく普通の生活なのだということを思い知らされる。
なお、本書は投稿部分は実に興味深いが、巻末の編者あとがきは概ね無神経で不快。暴力を内在するものではなく、全くの他人事としている。また、韓国ではもっとヒドイ!という例を持ち出す必要があったのか疑問。より苛酷な状況にいる人よりマシでしょ、という意図などだとしたら、まことに不愉快。
★★★☆☆

*1:あるテーマに沿って、様々な書籍を集め、「展示」してある棚。むろん、閲覧・貸出可。正式名称はなんでしょうな?ともあれ、私はこれが大好きで、どこの図書館に行っても、必ず探してしまう。あなたの図書館にもありますか?

*2:パンツいっちょでくんずほぐれつしていて、変な気分になったりしないのかな〜、という興味はあるけど。