短評:ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」 (講談社文庫)「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」 (講談社文庫)
アレン・ネルソン

講談社  2010-03-12
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内容紹介/Amazonより
貧困と人種差別から解放されるために18歳で入った海兵隊
そこでの訓練で、人を殺すことのためらいや、罪の意識が薄れていく。
やがて戦地に赴くことになり、降り立ったのは、ベトナム
「ほんとうの戦争は無慈悲で残虐で愚かで、そして無意味です」著者の口から静かに語られる、殺し合うことの悲惨さ、命の尊さが心を揺さぶる。

 海兵隊員になれば、わたしは「ニガー」ではなく、国家のために奉仕する、人々から「ありがとう」と感謝される、立派なアメリカ人となることができるのです。…入隊すれば、母に送金して、母を楽にしてあげられるのです。
  
 母は喜んでくれるものと確信していました。しかし、…母は、兄弟のようにわたしが殺されてしまうのだと…床にすわりこんで泣きはじめました。母の兄弟は第二次世界大戦で戦死していたのです。
 母には、本物の戦争と戦争映画の区別ができていましたが、わたしにはそれがなかったということなのです。

戦争を生きのびた者のひとりとして、本当の戦争について語ることは、…戦争がどういう悲劇をもたらすかを語ることでもあります。
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戦争から生まれ出るのは新たな戦争でしかなく、戦争から平和が生まれることなど決してありえない。
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前線で実際に戦った者で、戦争を賛美する者はひとりもいません。

  • 私にとっての戦争は、経験ではなく、多くのフィクション•ノンフィクションによる知識だけなので、「事実」ではないのかもしれない。しかし、それが理由で、私が「戦争は嫌だ」と感じることまでもが嘘にはならない。むしろ、このような素朴な感覚を、シニシズムに流されずに持つ事が大事だと思う。
  • 巻末にアレン氏の講演に出席したと思われる児童•生徒のコメントがあるが、アレン氏は2009年に逝去、肉声に触れる機会はもうない。残念だ。
  • 本書の文体は平易で、スムーズに読める。広く薦めたい良書である。