短評:吉原花魁日記(よしわらおいらんにっき)

吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)
森 光子

朝日新聞出版  2010-01-08
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内容紹介/Amazonより
「もう泣くまい。悲しむまい。復讐の第一歩として、人知れず日記を書こう。それは今の慰めの唯一であると共に、又彼等への復讐の宣言である――」。親の借金のために吉原へ売られた少女・光子が綴った、花魁・春駒として日々、そして脱出までの真実の記録。大正15年に柳原白蓮の序文で刊行され、娼妓の世界に、また当時の社会に波紋を呼んだ告発の書。(解説・斎藤美奈子)

  • 印象的な部分を抜き書きする。

「初見世!」自分は新しい品物であった。花魁という品物の中に投(ほう)り込まれていた。自分の額の上には、「初見世」と書かれてあった。
 おや、これは何だろうと思った時には、すでに、自分は、来る男、来る男に、五円、十円の金、時には二円、三円の金で、散々と蹂み躙られてしまっていた。

「娼妓なんて、良い方だよ。そりゃ女工などは酷いそうだからね。第一着物はないし、昼も夜もの労働で、体は綿のように疲れるし、そこへ行くと君なんか、着物は好きな立派なものが着られるし、仕事だって楽だし、性慾に不自由はないし、女工が羨んで入って来るのは当然だ」なんて云っていた。
 何と馬鹿にした言葉だろう。
「牢屋に入って、五年も六年も出られない貴方だと思って御覧なさい。そのあなたが、どんなに立派な、綺麗な着物を着たって、それをあなたは喜んでいられますか。…妾(わたし)等を御覧なさい。出られないのは牢屋と一寸も変りはありませんよ。…そんな所で、どんな立派ななりをしたって、チットも嬉しいとは思いませんよ。仕事が楽ですって?寝ていればよいのだって?殺されるかもしれない医者のメスを、横になって待つ病人は、寝ているから楽でしょうよ。…性慾に不自由ないなんて、まさか、蝮(まむし)や毛虫を対象に、性慾は満足出来ないでしょう。…」

 自分は母が、全然こうした郭の内容を知らないで、只、周旋屋に甘言で欺されたのだとのみ思っていた。…しかし、本当に知らなかったのかしら?自分は疑いはじめた。

  • 中々興味深かったのだが、時代のせいか、伏字部分が多くて閉口した。伏「字」というか、伏「行」状態なので、「XXがXXして」のように、単語を類推するのではなくて、状況をまるごと想像する必要がある。しかし、それが楽しいシチュエーションでもなく、いっそ逐一書いてくれた方が読み流せるものを、という気分だった。
  • Amazonのレビューに、本作は柳原白蓮の創作に決まっとる、森光子は実在しない、と断言している方がいて、ほほうと唸ってしまった。白蓮の生涯を紐解くと、本作の初版が出たのは、三人目の夫が病床にあり、幼児を抱えて生活に困っていた頃である。社会問題になるほど売れたのなら、随分助かったでしょうな。仮にそうであったとしても、全くの創作ではなく、(作中にもあるように)娼妓へのインタビューを元に構成したものであろうと推察される。そういう意味では、フィクションとしても、当時の社会暗部を映し出したものと言えよう。