短評:心から愛するただひとりの人

現代短篇の名手たち6 心から愛するただひとりの人(ハヤカワ・ミステリ文庫)現代短篇の名手たち6 心から愛するただひとりの人(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ローラ・リップマン 吉澤康子・他

早川書房  2009-11-30
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著者について/Amazonより
シリーズ・キャラクターのテス・モナハンと同様にボルチモア育ちの彼女は、その地で20年ほど記者生活を続けた後に、専業作家へ転身した。1997年に第2作『チャーム・シティ』でアメリカ探偵作家クラブ賞とシェイマス賞を受賞し、その後もアンソニー賞、アガサ賞、シェイマス賞、バリー賞、ロマンティック・タイムズ賞など数多くの賞を受けている。

  • 不思議な四部構成の短編集。第一部「野放図な女たち」(「行動的な」女性たちの物語)、第二部「ほかの街。自分の街ではなく」(ボルチモア以外を舞台とする)、第三部「わたしの産んだ子がボルチモアの街を歩く」(テス・モナハンものをメインに据えた構成)、第四部「女を怒らせると」(同名の書き下ろし)。含まれる作品のみならず、この構成が全体に良い効果をもたらしている。
  • 知らない作家、と思い込んでいたが、本書冒頭の作品(クラック・コカイン・ダイエット)を読んだことがあった。中々興味深い作品だった。

ベスト・アメリカン・ミステリ クラック・コカイン・ダイエット (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1807)ベスト・アメリカン・ミステリ クラック・コカイン・ダイエット (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1807)
エド・マクベイン エルモア・レナード ジェフリー・ディーヴァー スコット・トゥロー

早川書房  2007-12-07
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*1

  • 最後の数ページ、時には数行で、それまで見えていた風景を一変させるようなワザを使う作家である。はっきりとしたオチを付けるというよりは、「なるほど」と感じ入らせるようなテクニック。この「なるほど感」のしみじみ度は、表題作「心から愛するただひとりの人」が特に秀抜であった。
  • カテゴリはミステリとなっているが、作風は文学的で、語り手の心理を掘り下げ、そこに埋もれている何かを読者に見せているように思える。
  • 第三部最後の「偶然の探偵」は、テス・モナハンへのインタビューという形を取っており、まことに面白い。しかし、(おそらく)シリーズ作品いくつかの内容について触れている箇所が散見されるので、シリーズ未読の状態でこれを読んでしまったのはもったいなかったかもしれない。ボルチモアへの深い愛情、讃歌ともなっている。
  • 本書で一番の不満は、ジョージ・ペレケーノスによる序文である。作者を賞賛する内容ではあるのだが、文章がくどく、文体がいやらしく*2、作品の内容について触れ過ぎている。この人は何者?と思ったら、ハードボイルド作家だった。そうと知れば、この文体にも納得できる。偏見です。

俺たちの日 (ハヤカワ・ミステリ文庫)俺たちの日 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョージ・P. ペレケーノス George P. Pelecanos

早川書房  1998-09
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*1:余談ながら、このアンソロジーのディーヴァー作品は最高。次の短編集が楽しみ。翻訳を待つ。

*2:倒置法とカッコ書きと、呼びかけ(「聞いているかな、作家養成所の卒業生たち?」「なんとかしてくれ、ローラ、でも書くのはやめないで」)の多用にうんざりしつつ、自分のそれとの類似を見つけて、なおうんざりする。