変な学術研究1

最近、こんなニュースを見た。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101008-00000852-reu-int

http://megalodon.jp/2010-1010-1439-52/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101008-00000852-reu-int

ルワンダでブタにヒップホップ、生産増で貧困対策にも
 [NYIRANGARAMA(ルワンダ) 7日 ロイター] ルワンダ北部の農場で、ブタにヒップホップやレゲエ、R&Bなどを聞かせるという新たな試みが、生産増加などの効果を挙げている。

 農場の責任者ジェラード・シナ氏は、「人間は音楽が好きだから、動物にも聞かせてみようと思った」と説明。「動物が気に入る音楽を選ばなければならない」と語った。 

 同氏によると、このアイデアはベルギーで6年前に思い付いたもので、劇的な成果がみられている。音楽を聞かせて育てたブタは、音楽を聞かせなかったブタに比べ、2倍も子ブタを産んでおり、体重の増え方や肉質も良いという。


これを読んで、当然のようにこちらを思い出した。

 それにしても、動物実験や動物行動学をすべて人間に応用できると信じている素朴な人が多いのには驚かされます。牛にモーツァルトの曲を聞かせたら乳の出が良くなったという話を聞いて、社内にモーツァルトの曲を流せば社員がたくさん仕事をするようになるはずだ、と考え実行した社長さんがいたそうです。その会社のOLのみなさんは、「なんでこのごろ、乳が張って痛いんだろう?」と悩んでいるかもしれません。

パオロ・マッツァリーノ「続 反社会学講座」P144

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この記事を読んだ誰かさんが、「ウチの工場でヒップホップかければ、社員の生産性が向上するかも!」と期待して、結果として社員のみなさんの体重が増え、肉質が良くなったらどうしよう。あと、子沢山になる。めでたい。
マッツァリーノは、上記に続けて「音楽で赤ちゃんやこどもの教育効果を高めるとされる、いわゆる『モーツァルト効果』は1993年に発表されて大変話題になりましたが、その後、欧米の心理学者たちの研究により、効果がないことが立証されてしまいました。」と書いている。


記事によれば、農場の責任者ジェラード・シナ氏は、この例の逆で、「人間が好きなものは、豚も好きなはず」という理屈で実践しているという訳だ。実績は上がっていると記事にはあるが、科学的な調査によるものなのか、せっかくやってるんだから成果があるはず、という気分によるものなのかは不明。


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内容紹介/Amazonより
 欧州宇宙機関は、おなら感知探査機を打ち上げて火星人の存在を確認しようとした。英国南極研究所は、飛行機が上空を通過するとペンギンが転ぶという噂の真相を確かめるため、軍隊までかりだして実験をした…とんでもない笑い話に聞こえるが、当の科学者たちは至極まじめに研究しているのである。時にイグノーベル賞を受賞してしまうほどの大研究をなんと54本も一挙に紹介!知の魅力を凝縮したサイエンス・コラム集。

著者のシニカル過ぎる姿勢が時に鼻に付くが、興味深く、また笑える研究が紹介されている。この中に、「ロック・アラウンド・ザ・ドッグ」と名付けられた一章がある。動物と音楽に関する実験を紹介しているのだが、「なかには、まったく世の中の役に立たない実験も行なわれるようになった。」と酷評されているのが、「ブリトニー・スピアーズが歌うポップミュージックと、バッハのソナタを聞かせた場合に、犬はそれぞれどのような反応をするだろうかという実験である。*1」これに続けて、実験の内容が詳しく説明されているのだが…

さて、犬たちにブリトニー・スピアーズの歌やクラシック音楽を聞かせる前に、なにを思ったのか、ウェルズ博士はメタリカというヘヴィ・メタルバンドの音楽を聞かせた。…50匹の犬を集めて、耳をつんざくようなロックを聞かせたのである。その結果は、犬たちはまさに猛獣のように猛烈に吠え立てたという。そして、その後でクラシック音楽ブリトニー・スピアーズを聞かせたのだが、それには犬たちを落ち着かせる効果があったというのだ。

ヘヴィ・メタを聞いたあとなら、犬たちにとって、ベートーヴェンの『歓喜の歌』は十分に許容できるものだったらしい。そしてヴィヴァルディの『四季』も大丈夫だった。バッハのソナタに至っては、なんと一匹も吠えずに、最後まで静かに鑑賞することができた。しかし、その一方で、意外な現象も見られた。…ブリトニー・スピアーズも聞かせたのだが、その時の反応は、音楽を何もかけないで部屋を静かにした時の反応とまったく同じだったのである。

こういうものを読むと、「科学的な調査」って何?という疑問が生まれるが、ウェルズ博士におかれては、ぜひルワンダに赴き、豚とヒップホップの関係について調査してほしい。ただ、その時には、最初にメタリカを聞かせるのはやめた方がいいと思う。


本書には続編もあるので、こちらも読んでみるつもり。

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*1:この実験の結果は、<動物福祉/アニマル・ウェルフェア>誌(11巻、385-93頁)に報告された。