ならいごとことはじめ

かん子さんは、現在4歳。保育園では上から二番目、年度内に5歳に達するクラスにいる。同じクラスの女の子たちは、ある子はピアノ教室に通い、またある子は水泳教室に通い、また別の子は英会話教室に通っている。何も習っていない子もたくさんいるのだろうが、たまたまかん子さんと仲のよい子たちが、上記のような「お教室」に行っている。
最近、「かんこちゃんもー(何か習いたい)」と言いだした。別に、何もやらなくてもいいのになあ。予定も都合もスケジュールもなく、ああ今日は何しよう!何でもできる!何もしなくてもいい!っていう気分をじっくり味わいなよ。と私は思うのだが、かん子さんは子供なのでそうではない。そういや、私も幼時には昼寝が嫌で仕方なかった。*1かなり違うけれど、似たようなものなのかもしれぬ。
はじめは、「ぴあのがしたいー」と言う。調べると、月謝が高い。家にピアノもないから、それだって買わにゃならん。安いピアノでも安くない。諦めてくれ。
じゃあ、プール!と言うのでこれまた調べたら、人気が高く、抽選でしか入れない。週末クラスは特に人気があるため、同じクラスの他の子は二年前に出した応募でようやく入れたという。それに、プールが近くない。雨の日も風の日も連れて行くのはしんどい。諦めてくれ。
英会話も提案されたが、これは即座に却下した。ネイティブ同様スピーカーにならなくていいから、学校の勉強をしっかりおやんなさい。
ケチで面倒くさがり屋の母親のせいで、かん子さんはショパンコンクールもオリンピックもバイリンガルも諦めねばならない。いいのだ。出るかも分からない芽を育てるのに躍起になって、私の乏しい発想では思いもよらぬ別の花を枯らしてしまうかもしれないのだ。ピアノも水泳も英会話も、やりたけりゃ自分で始めればいい。


さて、近頃かん子さんの姿勢の悪さが気になっていた。椅子に座れば背が丸まり、立ち上がればぐにゃぐにゃとすぐに壁にもたれる。ついでに走るとよく転ぶので、全体的に筋力と巧緻性を上げたいなー、と考えた。私もひとのことは言えないので、運動せねばならん。親子で通う体操教室、みたいなプログラムを近所のスポーツクラブに見付けたが、開催は平日昼間のみ。しかも、全部埋まっている。子供だけのクラスもにも空きがない。中々うまくいかないものだ。
かん子さんが通っている保育園の隣に、小さいコミュニティセンターのような施設がある。そこの窓に「ジュニアのためのバレエ教室/生徒募集中」のポスターが貼ってある。保育園からの帰宅時、ふとそのポスターを見た。ピアノ教室より月謝が安い。プールよりだんぜん近い。こういうものは、徒手空拳でやるのだから、道具もさして要らないだろう。募集しているってことは、空きがあるかもしれない。
じーっと見ていると、チャンス!と思ったのか、かん子さんが「バレエしたーい、バレエやりたーい」と呪文のように唱え始めた。見れば、予約すれば「体験レッスン」ができるとある。その場で電話すると、ちゃきちゃきした口調の若い女性が、あっさりと予約を受け付けてくれた。
その週の土曜日、20人弱の学齢前(3歳〜6歳)バレリーナに加わったかん子さんは、揃いの黒レオタードの群れの中で孤軍奮闘した。他の子に比べれば、体は硬いし、鬼軍曹のように厳しい*2先生の言葉は意味不明だし*3、がんばってもできないし、できても「かん子ちゃんすごーい」と褒めてもらえない。甘えたがり、だらけたがりのかん子さんには、苦痛だったのではないかな?と考え、終了後「どうだった?」と聞いてみた。「もういい……」と音を上げるかな、と思いきや、「楽しかった!」とぴょんぴょんしている。「続けられる?すぐにやめるなら、意味ないよ」と念を押すも、「続けられる、がんばる」と前向きである。
徒手空拳といえども、すっぱだかでやる訳ではない。レオタードとタイツ、シューズを購入して入会した。シューズのサイズが19.5センチ。足の成長が著しいのが心配である。まあ、がんばってローザンヌを目指してくれ。

*1:今は頼んででもしたい。日本にもシエスタを導入せよ。

*2:「あくびしてる子は、今すぐ帰って寝なさい!」とか言っちゃうのだ。すてき。子供たちも、私語一つない。私が外野から「足が逆」とかひそひそアドバイスしていたら、「お母さん、話しかけないで。本人なりにやりますから」とピシリと叱られた。若いのにしっかりしている。

*3:足は一番!とか、手はアン・オー!とかいきなり言われても分からない。