保育園ブルー



「待機児童」という言葉がある。これは、認可保育所への申し込みをしたものの、施設が不足しているために入所ができない児童を指す。この資料によれば、東京都の待機児童数は5,221人。少子化だー問題だーと一部の人が騒ぐ割には、5,000人以上の子供の親が困っているということだ。コドモ、余ってるじゃん。
考えてみれば、おかしな話である。「小学校が足りないので、残念ながらお子さんは入学できません」とはならないのに、保育所は当然のように「施設不足につき入所できません」がまかり通っているのだ。義務教育ではないとは言え、多くの家庭が必要としている施設である。国の借金を体験できる施設は作れて、なんで保育所は増やせないのだ。ホラ、少子化だから……って、だからコドモが多過ぎるって話なんだって。
私が住む自治体の保育所空き情報を見ると、空きがない訳ではない。4歳を超えると、どこかしらに常時空きがあるようだ。しかし、0-2歳児枠にはほとんど募集がない。乳児は管理が難しいのだろう、もとから枠が小さいのだ。この現状を見ると、徒にハコばかり増やしても解決にはならない(4-5歳児枠にダブつきが出る)のは推測できる。だけど、どうにかならないものだろうか?育児休業は2年も取れないのだ。認可保育所でなくとも、この枠で入れる施設は多くない。乳児を満員電車に乗せて行くほどの場所を選びたくはない。本当に、どうにかならないものだろうか?
お上はなーんにもしてくれねーだよ、と愚痴るだけでは良くないので、お上のお仕事ぶりを見てみよう。待機児童数の減少は、実は小泉首相が就任の際の公約として掲げている。そして、首相官邸のウェブサイトでは、「現在どのような状況になっているのか。また、今後、待機児童をなくすためにどのように進めていく考えなのか」という質問(2005年11月24日)に対し、以下のように回答している。


1  保育所の待機児童については、その減少を図るため待機児童ゼロ作戦を推進し、保育所の受け入れ児童数の拡大だけではなく、保育ママ自治体におけるさまざまな施策、幼稚園における預かり保育等を活用して、平成14年度から16年度までに計15.6万人の受入児童数の増加を図ったところです。

2  その結果、平成17年4月の保育所待機児童数は、昨年に引き続き前年よりも減少し、約2万3千人となりました。個別の市町村で見ても、例えば待機児童数が全国最多であった横浜市では、昨年と比較してほぼ半減しており、平成14年度から進めてきた「待機児童ゼロ作戦」の効果が着実に現れてきていると考えています。

3  このように改善傾向にあるものの、女性の社会進出などを背景に保育サービスへの利用希望が増加しており、依然として都市部を中心に多数の待機児童が存在しています。平成16年末に決定した「子ども・子育て応援プラン」に基づき、待機児童50人以上の市町村を中心に、平成19年度までの3年間で集中的に受入児童数を拡大し、待機児童の解消を図ってまいります。



アラ、小泉さんがんばってるじゃないの。待機児童って減ってるんだ〜。これからも良くなっていくんだ〜。あー、安心した。と言いたいところだが、ここで野党から待ったが入る。
共産党のサイトによると、政府は「小泉内閣になった〇一年の調査から、数を少なく見せるために待機児の定義を改悪」していると言う。「第一希望で認可保育所を申し込んだのに入れず、保育ママや保育室などの国基準を満たさない保育施設を利用している場合、従来は待機児として数えていたのに、新しい定義では除外」されているのだと。
例えば、ここにある家族(共働きの両親と乳児一人)がいる。認可保育所に申し込んだが、選に漏れてしまった。仕方がないのでどうにか探した無認可保育園に預けているが、何かと不便(遠い・料金が高い等)なので、認可保育所に空きがあれば入りたいと切望している。……しかし、この家庭の子供は、待機児童数には勘定されない。公式な数に入らなくたって別にいーじゃん、と思いがちだが、あんまり良くない。何故ならば、「待機児童50人以上の市町村を中心に……待機児童の解消を図ってまいります」だからである。仕方ないから次善の策を取っていると、お上は「あ、間に合ってる?じゃあ、ここは後回しで……」としてしまうらしいのである。
先程の資料から東京都だけを抜き出してみると、62の市区町村の内、待機児童数が50を超えるのは27。面積が広い八王子市・町田市、高層マンションが急激に増えた地域は特に数が多い。
少子化問題って、本当に正体が見えない。私が住む集合住宅(約70戸)でも、今年少なくとも3人の子供が生まれている。道を歩けば、ベビーカーや小さな子供たちを見ない日はない。妊婦さんにもよく会う。デパートの授乳室は満員だった。そして、保育所は入所待ちが列になっている。でも、少子化なのだという。よー分からん。


さて、このように悩める私(我が家)も、先週、地域の認可保育所に入所申請を出した。育児休暇は来年の二月まであるが、早目に出しておけば、入所できる確率はわずかに上がる。
しかし、この申請を出すまでには色々と葛藤があった。
まず、私はかん子さんと離れたくない。しかし、収入がほとんどないのは非常に不便である。何かあった時に、蓄えがないと考えるだけでも恐ろしい。でも、これからお座りできるようになって、ハイハイするようになって……そんな風に成長していくかん子さんの姿を見逃すのかと思うと、これまた辛い。だが、数多く(おそらくほとんど)のお父さんたちは、昼間の我が子の様子を当然のように見逃しているんだよなあ……と考えると、私の親心なんてただのやじ馬に思えてくる。逆説の接続詞がいくつあっても足りぬ煩悶は続いた。
かん子さんはどう思っているだろう?会話できたらいいのにな。そんなことを考えていた先日、予防接種(DPT2回目)会場の待合室で、何人かの赤ちゃんたちとまみえる機会があった。すると、赤ちゃん同士がお互いを認識するや、とてもゴキゲンに何やらエールの交換(のよーなもの)を行うではないか。私の引っ込み思案が災いして、かん子さんは普段両親以外と接触することがない。保育園に行けば、かん子さんに友達ができるかもしれない!
親から離れるのを、かわいそうだとばかり思っていた。子供の世界は、家族だけで作られる訳じゃないのに、なんでこんなに近視眼になっていたのだろう。こうしてようやく申請へのふんぎりがついた。書類が整い、提出できたのは、8月度締め切り当日のことだった。


今日、夕方にポストを見た。「保育課入園相談係」からの封書があった。いさんで封を開けると、「入所不承諾通知書」が入っていた。「入所を希望する保育所の欠員数よりも申込数が多く、直ちに入所できないため」とあった。
不思議にがっかりはしなかった。まだかん子さんと一緒にいられるんだ、と思った。涼しくなったらちょっと遠くまで散歩に行こう。それから、近所の子育てサークルを探して、どこかに参加してみよう。キンチョーして挙動不審になるかもしれないけど、親子で引きこもってばかりじゃかん子さんに悪い。
来年になっても、保育所には入れないかもしれない。保育所浪人になるかもしれない。そう考えると少し憂鬱だが、きっとどうにかなると信じたい。