短評:吉原花魁日記(よしわらおいらんにっき)

吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)
森 光子

朝日新聞出版  2010-01-08
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内容紹介/Amazonより
「もう泣くまい。悲しむまい。復讐の第一歩として、人知れず日記を書こう。それは今の慰めの唯一であると共に、又彼等への復讐の宣言である――」。親の借金のために吉原へ売られた少女・光子が綴った、花魁・春駒として日々、そして脱出までの真実の記録。大正15年に柳原白蓮の序文で刊行され、娼妓の世界に、また当時の社会に波紋を呼んだ告発の書。(解説・斎藤美奈子)

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短評:ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」 (講談社文庫)「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」 (講談社文庫)
アレン・ネルソン

講談社  2010-03-12
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内容紹介/Amazonより
貧困と人種差別から解放されるために18歳で入った海兵隊
そこでの訓練で、人を殺すことのためらいや、罪の意識が薄れていく。
やがて戦地に赴くことになり、降り立ったのは、ベトナム
「ほんとうの戦争は無慈悲で残虐で愚かで、そして無意味です」著者の口から静かに語られる、殺し合うことの悲惨さ、命の尊さが心を揺さぶる。

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性犯罪被害にあうということ

性犯罪被害にあうということ性犯罪被害にあうということ
小林 美佳

朝日新聞出版  2008-04-22
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24歳の夏に、道を聞くふりをして近づいて来た2人組にレイプされた著者が、如何にして同様の被害に苦しむ人々の助けになるべく、本書を著すに至ったか、を綴ったドキュメント。
非常に読むのが辛く、何度も動揺して本を閉じたが、読むだけの私に何の苦労があろうか、と奮起してどうにか読み終えた。

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夜の桃

夜の桃夜の桃
石田 衣良

新潮社  2008-05-22
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内容紹介/Amazonより
お願いします、年上の男の人じゃなきゃ、だめなんです。


数億円のローンを組んだ家、高性能なドイツの車、イタリア製のスーツ、スイス製の機械式腕時計、広告代理店勤務の可愛い愛人……すべては玩具にすぎなかった。幸福にも空虚な日々に流される男が出会った、少女のような女。その隠された過去を知り、男は地獄のような恋に堕ちた。東京のニュー・バブルの中で、上下にちぎれていく格差社会に楔を打ち込む、性愛。デビュー10周年の著者が挑む、渾身の恋愛長編。

以前、斎藤美奈子の「あほらしやの鐘が鳴る」を読んで、斎藤が渡辺淳一の「失楽園」をバッサリ語っていたのに大笑いした。

渡辺淳一の「失楽園」ダイジェスト解説にまた笑う。「『失楽園』は同じパターンのくりかえしです。(1)有名観光地で、(2)おじさま好みの衣装を着たヒロインと、(3)季節の料理を堪能した後、(4)一流の宿でセックス。「ブルーガイド」+「ファッション雑誌」+「グルメガイド」+「ハウトゥーセックス」=『失楽園』」。このかいつまめばお気楽な浮気小説が、命を賭けた純愛ってことになるんだから不思議である、という論調が最高。

http://d.hatena.ne.jp/nekonomimi/20070528

上の内容紹介をご覧になればお分かりかもしれない。本書もナベジュン版「失楽園」と同じである。命を賭けない分、よりお気軽かも。「文学賞メッタ斬り!〈2008年版〉」で、石田本人が、ナベジュンに「あとは任せた」みたいなことを言われた、と述べていたので、ある意味確信的なのかもしれない。*1

文学賞メッタ斬り!〈2008年版〉たいへんよくできました編文学賞メッタ斬り!〈2008年版〉たいへんよくできました編
大森 望 豊崎 由美

PARCO出版  2008-05
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石田版をナベジュンと同じように処理するならば、


『夜の桃』は同じパターンのくりかえしです。
(1)それぞれの縄張り*2で、
(2)おじさま好みの衣装を着た3人のヒロインと、
(3)アルコールと食事を堪能した後、
(4)それぞれの縄張りでセックス。
雑誌「LEON」(のホテル・ファッション・グルメ・セックスに関するページ)のまとめ直し=『夜の桃』。作中には、「LEON」がモデルと思われる雑誌の取材に、主人公が答えるシーンも出てくる。

*1:ちなみに、この時の座談会(司会:大森望豊崎由美)には、石田衣良が自宅を取材を受けるためのスタジオに改装して、そこの本棚には帽子が置いてある、というエピソードが出てくるのだが、本棚に本をぎゅうぎゅう詰めにしないなんて!と発狂する豊崎さんが、まことにかわいい。

*2:40代の妻:神宮前の自宅、30代愛人:主人公がオーナーのバー・愛人が住む恵比須のマンション、20代の愛人:学芸大学駅前の日本料理屋

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短評:隠蔽捜査

隠蔽捜査 (新潮文庫)隠蔽捜査 (新潮文庫)
今野 敏

新潮社 2008-01-29
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内容紹介/Amazonより
 竜崎伸也は、警察官僚である。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲は“変人”という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは、国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているにすぎない、と。組織を揺るがす連続殺人事件に、竜崎は真正面から対決してゆく。警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作。

  • 面白い!登場人物の造形が際立っており、並走するエピソードを纏める手腕も素晴らしい。今まで読んだ警察小説の中ではピカイチ。最初は活字の大きさに驚いたが、20頁も読まぬ内に、自分好みだと気付き、興奮した。多くは語るまい。読むべし!
  • 最近の事件*1の記事などを読むと、竜崎だったらこうしただろうなあ、などと考えてしまう。キャラクタが立っている証拠だろう。

*1:郵便不正事件に絡む証拠改ざん事件で、大阪地検特捜部の主任検事、前田恒彦容疑者が証拠隠滅容疑で逮捕されたもの

短評:ゴーストライター

ゴーストライター (講談社文庫)ゴーストライター (講談社文庫)
ロバート・ハリス 熊谷 千寿

講談社 2009-09-15
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内容紹介/Amazonより
見た目の華やかさで人気を博したものの、イラク戦争を境に人気を失った元首相、アダム・ラングのゴーストライターとなった「私」は、孤島に滞在中の彼から聞き取り取材を始めた。だが捗らない原稿に悩まされるうちに、執筆途中で水死体となって発見された前任者の死因に疑問を持つようになる。実際に英国首相と昵懇だった著者が描く謀略スリラー。

  • 前英国首相の回顧録執筆を“手伝う”ゴーストライターの「回顧録」という体裁のミステリ。筋立は非常に面白く、登場人物の造形、社会状況の設定もうまい。語り手の心情に心地良く振り回された。
  • しかし、文体は好みではない。シニカルで複雑な比喩の多用、会話文の不自然な翻訳(老獪な男性政治家が、突然「ご冗談でしょ」と言い出す等)、共に違和感。だってさあ、

〈ラインハート•パブリッシングUK〉は、1990年代に企業が激しい病的盗癖/クレプトマニアにでもなったかのような時代に勝ち取った、古くからある五つの会社から成り立っている。

って、こうやって入力するとどーってことないけど、最初読んだ時は、まじ意味不明だったよ。

  • 本作は映画化されており、主人公をユアン•マグレガー、前首相をピアース•ブロスナンが演じている。ユアンが若干若い以外は、本作のイメージにあっており、2人の顔を浮かべながら読んだ。文句はあるが、それなりに楽しめたし、スリリングだった。主人公が名無しであることの効果が、じわりと腑に落ちる終わり方も良い。

お父さん、怒鳴らないで―殴られるより苦しいよ!

お父さん、怒鳴らないで―殴られるより苦しいよ!お父さん、怒鳴らないで―殴られるより苦しいよ!
毎日新聞生活家庭部

径書房 2003-11
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内容紹介/Amazonより
ささいなことで大声を出し、家族を威圧するお父さん、「テメェー、バカヤロー」はやめてください。大切な家族を怒鳴りつけて、うれしいのですか?あなたの家族は泣いています。傷ついています。『毎日新聞』に寄せられた96人の投書をまとめる。怒鳴る夫、怒鳴る父について寄せられた多くの投書は、言葉がいかに人の心を傷つけるかを物語っていた。

図書館の「特集棚」*1で偶然見つけた一冊。この時のテーマは「家族」だった。向田邦子のエッセイ、育児本などが一緒にあった。
その中で、この一冊を手に取ってしまうというのが、どうにも困った「趣味」である。私は、暴力を主題とした物語に、いかんともしがたく惹かれてしまう。

*1:あるテーマに沿って、様々な書籍を集め、「展示」してある棚。むろん、閲覧・貸出可。正式名称はなんでしょうな?ともあれ、私はこれが大好きで、どこの図書館に行っても、必ず探してしまう。あなたの図書館にもありますか?

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